[原子力産業新聞] 2007年4月5日 第2374号 <6面>

【座談会】国際産業再編のうねり ─ 日本の国家戦略 21世紀、世界の中核を担う原子力

“日本主導”の課題は開発力 メーカー主役の次世代軽水炉が試金石

司会 個々の原子力ビジネスについては企業の経営判断の問題だが、原子力商戦や新技術開発競争が国際的に激化する中、日米政府間で政策調整・協調の枠組みを構築することで、日本が原子力で世界の主導権を握ろうとする際の“競争”が損なわれることにはならないか。または、そうした意識は必要ないのか。

〈日米の競争と協調分野を見極め〉

柳瀬 普通の産業と原子力が少し違う点は、アメリカで原子力が発展することは、日本にとってもプラスになる。世界全体の“パイ”が同じではなくて、どこかの国で脱原子力が進むと日本も苦しくなるという関係から、アメリカの原子力が伸びていく、あるいは世界の原子力が伸びていくことは、日本の原子力が伸びていくためにプラスである。その意味では、他産業に比べると、「一緒に協力して原子力を応援していこう」という共通項が相当多い、かなり珍しい分野だと思う。一方、そうは言いながら、産業なので“競争”の側面も当然ある。そこのところは、どの部分が協調していく分野で、どの部分が競争していく分野かをよく見極めながら進めないといけない。

例えば、これだけ産業界が国際再編して日本の3メーカーそれぞれのパートナーが決まってきたが、私はこの産業再編は、今年から“第2ステージ”に入ると見ている。昨年までは何が検討の中心だったかというと、どの企業とどの企業が連携するかがメーカーの企業戦略の一番重要な部分だったと思うが、そこは昨年、大体の組み合わせが見えてきた。では次に、今度はそれぞれ組んだ相手のどちらが主導権を握るか、多分そういう構図になっていくと思う。

そのときに、日本政府の方針ははっきりしている。「世界に通用する産業規模と競争力を持つ」という意味は、単に設計図面をもらってプラント・部品などハードをつくるだけの“製造下請け”になってもらっては困るし、また、ただ提携企業の株式を保有して配当収益を得るだけでは、日本の産業政策としては目的を満たしたことにはならない。開発から製造、さらにメンテナンス分野まで一貫して独自技術と継続的実績を持っているのが日本企業の強みだから、せっかくグローバルな大手企業と組んでも、逆に、部分的なところだけを担うようなことになってはかえって弱体化してしまう。

特に製造部門については、日本は世界の新規建設が少ない中で一貫して継続してきたので、多分、圧倒的に強いはずだ。問題は開発力やブランド力にあり、この部分については、欧米はずっと新型炉の開発に取り組んできた歴史がバックにあるので、日本メーカーがより優位に立てるかというのが大きな勝負どころだと思っている。その意味で今、日本のメーカーと電力会社が一緒に取り組んでいる「次世代軽水炉」の開発を、ナショナル・プロジェクトとして推進する計画は大きな意義があると思う。日本メーカーの開発能力、それに大変有力なユーザーである電力業界のニーズをよく踏まえて、そこにわが国政府も支援して意味のある開発能力を持つことが、原子力産業の国際再編第2幕に今から入っていくときに、相手の海外メーカーとの関係で競争力上優位に立ち、主導権を握っていくためのポイントだ。これは正に日本の国益そのものなのであり、政策官庁としても気を引き締めていきたい。

一方、原子力産業・マーケットのグローバル化時代を迎える中で、特に気をつけなければならないことは、日本政府が日本企業とだけの話し合いで国際展開して、後からアメリカにとめられるのが一番高いリスクである。それを事前に、日米政府間で調整可能ならしておくことが、企業経営者から見ても一番リスクが下がることだと思う。


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