[原子力産業新聞] 2007年4月26日 第2377号 <4面>

書評 「放射線利用の基礎知識」〜半導体、強化タイヤから品種改良、食品照射まで〜 東嶋 和子 著

「放射線」というと、なんだか「難しく、とっつきにくいもの」というイメージがある。しかし、「放射線」とは我々の体の中にも存在し、自然界にも極々普通に存在する「身近なもの」である。

本書は、その放射線がどのように利用されているかだけでなく、原子や分子、原子核等の基礎知識から、放射線の性質や原理、単位、身のまわりの放射線や人体への影響等に関しても広く取り上げて紹介している。思わず放射線の影響を「体感」しているかのような錯覚に陥ってしまう程の表現力が、放射線について初めて「知りたい」と思って読む人にも、非常に楽に知識を学ばせる。

「放射線」のことを理解しようとする時に、最初にぶつかる壁は、放射線の「単位」の難しさであろう。そのベクレル(Bq)、グレイ(Gy)、シーベルト(Sv)を「雪合戦ならならぬ、石を投げるゲームを想像」することによって、分かりやすく実感できるように解説している。また、「原子を東京ドームにたとえると、原子核は東京ドームの中央に置いたパチンコ球くらいしかない、……自分が『放射線』になったと思って東京ドームを飛んでみると〜!」というたとえの部分では、本当に東京ドームを飛んでいる感覚がして、心地良ささえ感じられる。電子から見ると私たちの身体は、スカスカだ。

「怖い」というイメージの強い「放射線」だが、使い方によっては、我々の身近な暮らしに大変役に立つものである。著者は、本書が「放射線のみならず、身のまわりに存在する様々なリスクを『正当に怖がる』きっかけになれば、望外の喜び」と結んでいる。

「妊娠中に浴びると、胎児に悪い影響はあるの?」とか、「放射線によるがん治療って、どんなことをしているの?」という疑問や興味が少しでも湧いたら、気軽に読むことをお勧めしたい。また、「『放射線』のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたいけど、説明するって難しい」と思っている人にも、活用を勧める1冊である。

(出版社:講談社、定価940円)


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