[原子力産業新聞] 2007年8月30日 第2393号 <3面>

豪州 活発化する原子力論議 首相が態度を修正 導入は住民が判断

原子力発電導入をめぐり議論が活発化しているオーストラリアで、J.ハワード首相(=写真)が従来の考えを修正し、「原子力発電所の立地に関しては、事業者の判断よりも立地点の住民の総意を重視する」との方針を示した。

これまで同首相は、「原子力発電所の立地点は事業者が判断すべき事項であり、政府はこれに関与しない」との方針を明言していた。これに対し原子力発電導入反対を主張する野党労働党のK.ラッド党首らは「立地判断を事業者に任せるとは無責任」と政府を非難。「労働党が政権を取れば、オーストラリアに原子力発電所は建設させない」と息巻き、早くも年末の総選挙に向けたキャンペーンを開始している。

政権内部からも、ハワード首相の方針に否定的な意見が出ていた。首相の自由党と連立関係にある国民党のM.ベール副首相が22日、原子力発電導入に先立って住民投票を実施する必要があるとの考えを示し、P.コステロ財務相やK.アンドルーズ移民・市民権相ら他閣僚もそれに同調していた。

こうしたことからハワード首相は23日、原子力発電が経済性を持つためには10年以上かかり、その頃には世論も原子力発電に対して好意的になるとの見通しを示し、「その時期が来れば、住民投票を実施するのも良いアイデアだ」と、国民党に配慮した形で態度を修正した。

一方で同首相は、「根拠もなしに原子力発電に対する国民の恐怖心を煽っている」と労働党のキャンペーンを非難。「世界の総発電電力量の16%を占める原子力発電は、20億トン以上の温室効果ガスの排出量削減に寄与している。政府は国民の雇用と生活水準を維持しつつ気候変動問題に取り組むことを最重要課題としており、原子力発電は欠かせない」と原子力発電導入の必要性を、あらためて強調した。

ハワード首相が原子力発電導入について「まだ10年以上先の話」としていることや、コステロ財務相が「われわれの政治生命があるうちは、具体的な原子力発電所の建設は提案されないだろう」と発言していることなどから、「政府が原子力導入問題を先送りしている」と指摘する向きもある。

しかしこれはハワード政権が、現実的な発電コストを重視しているためでもある。現に、昨年末に首相に提出されたタスクフォース報告書は、原子力発電コストについて、現状では石炭火力発電コストよりも20〜50%ほど割高であり、向こう10年は原子力発電所を建設できる可能性は低いと指摘している。

また同報告書の「原子力への投資リスクを減らすために、確固とした原子力推進政策の下、適切な許認可システムと規制体系を確立することが重要」との指摘に応じ、首相は今年4月に国内原子力産業の拡大や将来の原子力発電所導入に向けた法規の整備を指示。関連省庁が、総選挙に先立つ9月までに作業を完了する予定で、首相は着実に原子力発電の導入に向けた地固めを進めている、とも言える。


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