[原子力産業新聞] 2007年9月13日 第2395号 <2面>

【クローズアップ】参議院議員 自民党エネルギー戦略合同部会 事務局長 加納 時男氏に聞く
「政局と原子力の今」の読み方

―政局が混迷の度を増す一方、新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所被害も加わり、地球環境対策としての原子力の顔≠ェ後退していないか。

加納 こういう風に考えたらいいと思う。世界的には長年にわたり、環境派といわれる人たちの間で「反・非原子力」が主流となり、また、米国では30年間、原子力発電所の新規建設がストップ、欧州でも「脱原子力」の動きが相次いだ。しかし、これからは原子力発電を切り札として地球温暖化防止、エネルギー・セキュリティー問題等の課題に立ち向かっていこうと「原子力ルネサンス」の流れが加速してきたことは、一般にも広く知れ渡ってきた。

加えて、日本の政党間ではどうかというと、先の選挙で参議院では民主党が第一党となったが、衆議院ではまだ自民党が圧倒的多数を占めている。選挙前に月刊誌が主催した自民、民主、公明3党のエネルギー政策担当責任者座談会では、エネルギー政策の基本は経済、環境、資源の持続的発展にあり、このための欠かせない選択肢としてエネルギー効率の改善・省エネと原子力だということで明確に一致した。したがって、全体的地合としては、国際的にも国内的にも原子力の重要性に対する認識は変化ないし、共通している。

ただ、そうした地合のうえに今、さまざまなマイナス現象が起こっているのは事実。ひとつは原子力発電所のデータ改ざん問題であり、もうひとつは7月16日に起きた中越沖地震が柏崎刈羽原子力発電所に大きな被害をもたらし、原子力安全への不安を増大したことにある。ただし、炉心構造物等の精密点検・検証はまだ残されているが、最も肝心なことは設計想定値を2.5倍も上回る揺れにもかかわらず、原子炉本体は安全に停止、冷却し、環境に影響を与えるような外部への放射能漏れを防ぐという基本的機能はきちんとワークしたことにあり、これは国際原子力機関(IAEA) も評価している。

それにもかかわらず、被災初期段階で誤報や正確さを欠いた情報が飛び交い国内外の不安を煽るとともに、風評被害が起きたことは残念だ。ただ、全国版一般紙の中にも社説で、「安全性はしっかり確保された。この基本はきちんと押さえないといけない」と書いたところが複数あったことは画期的。メディアにも少しずつ変化が見られる。大事なことは、今回の知見、反省点を国内外で共有し、世界の原子力安全につなげていくことにあり、中越沖地震問題で日本の原子力発電が行き詰るとか、大きな方針転換が必要だとは考えていない。

―来年、日本が議長国となる北海道洞爺湖サミット(G8)で、実効ある「ポスト京都議定書」の枠組み確立を期待できるのか。

加納 6月の独ハイリゲンダムサミットでは、安倍総理が2050年までにCOの排出量を50%削減することを骨子とした「美しい星50」構想を提案、これがサミット宣言に採択され、また「原子力の平和利用は世界のエネルギー安全保障に貢献するとともに、気候変動の課題に対応するものである」と、原子力についてもしっかりコミットされている。その先に洞爺湖サミットがあるわけで、これからさまざまな議論があろうが、出発点はハイリゲンダムの合意をベースに進んでいくはず。仮に、日本で政権交代があっても、「美しい星50」構想が星屑となって空の彼方に消し飛ぶようなことはなく、日本政府のスタンスは変わらないと思う。

そのうえで、ポイントは2つ。ひとつは世界のCO排出量が断トツの米国、2番手の中国、経済が急成長している5番手のインドがいずれも2012年までの京都議定書の枠組みから外れているわけで、何よりもこれらの諸国の参加を得なければ、数値目標云々を言ってもまったく意味がない。

第2は、では各国ごとに数値目標を定め、削減枠を科すことができるかの各論になるとコンセンサスを得るのは容易ではない。数値目標という言葉自体、CO総排出量なのかどうかもはっきりしない。私が今提案しているのは、GDP当りのセクター別原単位(COの発生量とかエネルギー消費量)をそれぞれの国が自ら改善目標を立て、その実現を約束して第3者機関にチェックしてもらう、日本経団連の自主行動計画の国際版だ。米国も中国もCOの総排出量規制には絶対反対だが、「それで改善目標を立てることは十分考えられる」(米国)、「では、これから経済成長する国の発展の芽を摘まれることはないんですね」(中国)と反応しているように、議論の接点はあると思う。

原子力発電の積極的活用についても、国際機関であるIEAやIPCCあるいは東アジア首脳会議(ASEAN+6)等でも明確にコミットし始めていることは大変な前進で、一歩一歩着実に変わってきている。欧州でもドイツでさえ脱原発路線≠フ見直し基調が強まってきた。

こうした大きな流れの上に立ち私は今、9.11同時多発テロ事件当時のニューヨーク市長ジュリアーニ氏の演説の一節(略記)

「New Yorkers never give up. Never have, and never will 」を借りて、「原子力に携わるわれわれはこれまでも多くの困難に遭遇したが、それを乗り越えてきた。われわれは決してくじけない。これまでも、そしてこれからも」と強調したい。


(原子力ジャーナリスト 中 英昌)

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