[原子力産業新聞] 2007年9月13日 第2395号 <3面>

ドイツ 「環境相の原子力安全への懸念は根拠なし」 反発強める電力会社

ドイツのS.ガブリエル連邦環境相(社会民主党)が、比較的古い原子力発電所をすみやかに閉鎖するよう提唱したことに対し、同国内の電力会社が反発を強めている。キリスト教民主・社会同盟と社会民主党からなる連立与党内部でも、環境相の発言をめぐり波紋が広がり、こと原子力政策に関しては一枚岩ではないことを露呈している。

環境相は1日、1970年代に送電を開始したビブリスA、ビブリスB、ブルンスビュッテル、イザール1、ネッカー1、フィリップスブルク1、ウンターベーザーの7基の原子力発電所に対して安全上の懸念があるとし、改正原子力法(脱原子力法)に基づく閉鎖スケジュールを前倒しして、早期に閉鎖することを電力会社に提案。早期閉鎖の見返りとして、上記以外の原子力発電所の運転期間延長を認めるとの考えを示した。

同相は、最近発生したブルンスビュッテル(7月)やクリュンメル(6月)での火災事故(いずれも非原子力部分)を挙げ、「旧型炉を早期閉鎖することで、原子力安全に対する国内の懸念が払拭される」と指摘した。

そして、閉鎖対象とされた7基の設備容量について、「国内総発電設備容量の5%に過ぎず、経済性の観点からも十分に無視できる規模だ」との見解を示した。

これに対し、ドイツの電力会社は一斉に反発。「フィリップスブルクの安全システムについては、環境相自身がこれまで何度も公式に賞賛している」(EnBW社)、「ビブリスには1999年以来13億ユーロを投じてバックフィット作業を実施した。安全性は運転年数に影響されるものではない」(RWE社)などと反論し、国内原子力発電所の安全性に対する環境相の懸念を「根拠の無いもの」と否定した。2件の火災事故についても、「いずれも初期段階で発見され、適切に対処されている」(RWE社)と強調している。

ドイツで現在運転中の原子力発電所は、設計上の問題も無く、安全に稼動している。また、今回閉鎖対象とされた7基の合計出力は741万9,000kWで、出力がいずれも大きい。加えて、初期投資の原価償却も終了しており、経済性が非常に高い。

またツインユニットによる経済性も無視できない。イザール、ネッカー、フィリップスブルクはツインユニットであることから、1、2号機の運転期間を同期させることにより経済性が維持される。人員配置の観点からも、保守・補修や運転が最適化され、安全性も向上する。環境相は単純に送電開始時期で閉鎖対象を選別したが、こうした経済性や安全性をまったく考慮していないようだ。

キリスト教民主同盟のR.ポファラ幹事長は、「ドイツのエネルギー・ミックスの中で、原子力は重要なシェアを占めている」との認識を示し、「古いからというだけの理由で早期閉鎖させる法的根拠はない」と、環境相の暴走を非難している。


Copyright (C) 2007 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.