[原子力産業新聞] 2007年9月13日 第2395号 <4面>

新刊抄 「アインシュタイン よじれた宇宙(コスモス)の遺産」 ミチカワ・カク著

アインシュタイン博士の伝記といえば、小学生から専門家向けまであるが、本書の特徴は、ニューヨーク市立大学の理論物理学教授の手によるもので、「科学史に燦然と輝く博士の偉大な業績」と「博士の限りなく豊かな人間性」の絶妙のバランス表記。

物理学の専門用語も出てくるが、著者はこちらがなんとなく理解できたような気にさせる“魔法の説明”で、気分よく先に進ませてくれる。実はそれが、博士も偉大な理論にたどり着く前に最初に描いた “イメージ”と共通するものであることに途中で気づかされるのだが。

「第1のイメージ――光と競う」(特殊相対性理論)、「第2のイメージ――ひずむ時空」(一般相対性理論)、「未完のイメージ――統一場理論」。

原子力関係者に関係があるのは、やはり第8章の「戦争と平和とE=mc」。ドイツ脱出から米国へ。故国に残った科学者との核兵器開発競争。米政府への核兵器開発提言とその後の核兵器反対運動への転身と、史実が目に浮かぶように生き生きと展開される。

本書はそこで終わらず、「天才の生涯にふさわしくない晩年の30年間」とさえ言われた時期にも筆を尽くしている。

博士の力でさえ完成し得なかった統一場理論の思考が、21世紀に入って多くの研究成果に結びついているという。

本書は、科学系伝記シリーズの翻訳本で、5月刊行の「マリー・キュリー」に次ぐ第2弾。

ミチカワ・カク著、菊池誠監修、槇原凛翻訳。WAVE出版、2,400円(税別)。A5版、203ページ。


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