[原子力産業新聞] 2007年10月26日 第2401号 <1面>

原文振が「原子力の日」記念シンポ 全体報道の必要性議論 マスコミとの不信感も指摘

日本原子力文化振興財団は23日、東京・有楽町の朝日ホールで、「原子力の日」記念シンポジウム・パネル座談会を開催、地震報道のあり方や高レベル放射性廃棄物処分に対する理解促進活動などを中心に議論した。

座談会では前半、7月の中越沖地震に伴う原子力発電所の影響について取り上げ、まず、田中知・東京大学工学系研究科教授より、柏崎刈羽発電所では、原子力安全にとって重要な「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の3機能が地震後においても確保されたことが説明された。情報公開に関連して、「人間の健康に関わることは速やかに専門家が評価し伝えるべき」などと、放射線影響の立場から松原純子・前原子力安全委員長代理が述べたほか、加納時男・参議院議員は、新聞報道による「黒煙上がる」、「放射能漏れ止まらず」といった大見出しが、国民に不安を与えてしまったことを振り返り、「一部の事実より全体の真実を」と強調した。また、元NHK記者だった橋本大二郎・高知県知事は、「原子力関係者とマスコミとの間に不信感が増幅していないか」として、データ改ざんが続いた電力会社の体質改善などを訴えた。

高レベル放射性廃棄物処分を巡っては、完成された科学技術の一方で、地域の理解を得る社会科学的システムが不十分なことを最大の問題として橋本知事は指摘し、「あのままでは東洋町に処分場を立地できないと確信」と、先般の文献調査反対に至った考えを述べた。放射性物質の影響に関して、松原氏は、「何となく」という根拠のない怖れを持つのではなく、リスクを評価し、危険を予測しながら行動する姿勢を持つこととともに、原子力関係者も客観的事実を単に主張するだけでなく、社会に合意を得るよう対話していくことが必須と訴えた。

また、橋本知事はかつて、電力会社から使用済み燃料の中間貯蔵施設立地調査の提案を受け、原発視察、世論調査など勉強を進めていた最中に、検査記録不正問題が発覚し信頼を損ねた経験を振り返った上で、自身の倫理観から、「お金を利用した立地政策から原子力行政は手を引くべき」と、交付金による地域支援策の見直しにも言及した。

これらを踏まえて、宗教学者・山折哲雄氏は、一部の犠牲者を選択して他を救うといった欧州型の「サバイバル・ロッタリー」的思想と、一方で、全員でリスクを背負うというアジア型の「無常観」に基づく思想の相違を述べた上で、国民に、便益を享受すると同時に、リスクも公平に負担する気持ちを醸成するためにも、例えば「東京に原子力発電所と放射性廃棄物処分場を1つずつ作ることを政治の力で検討しては」と提唱した。


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