[原子力産業新聞] 2007年10月26日 第2401号 <6面>

〈文部科学大臣賞〉今治明徳高等学校矢田分校(愛媛県)・2年 小林 夢子 資源ナショナリズムと原子力発電

私は総合的な学習の時間に「平和学習」を選択している。この学習は5年ほど前、本校の前身である今治明徳高等女学校が昭和20年4月の空襲で爆撃され、教師、生徒9人が爆死した聞き取り調査から始まった。

この活動は歴代の先輩たちに受け継がれ、県内で最も多くの被害者を出した8月の3回目の空襲の実態調査に発展し、さらに松山、宇和島など県内の空襲の実態調査へと発展した。また、アメリカのメリーランド州にある米国国立公文書館まで出向いて、未発掘の米軍資料や映像資料を持ち帰り公開したりもした。この資料は、新聞やテレビでも取り上げられ、多くの方々から喜ばれた。昨年は今治を空襲したB29の元搭乗員を米国アトランタに訪ね、米国側から見た戦略爆撃を取材したりした。

今年は、戦争中、敵性外国人として日本で不当な扱いを受けた人たちの聞き取り調査をしている。この人たちは、母国と日本が戦闘状態に突入し、それまで営々として築き上げた地位や財産をすべて奪われ、言うに言われぬ精神的苦痛を与えられた。今までの「平和」が、一瞬にして崩れていったのである。

私は、「平和」ということをもっと真剣に考えてみることが大切だと思う。「平和」はとてももろく崩れやすいものだとも思う。私たちの「平和」を脅かすものはどこにでも存在している。例えば、国際間の戦争の種であるテロ、拉致問題、宗教対立、民族対立、エイズ、鳥インフルエンザなどの疫病、砂漠化、異常気象、地球温暖化などによる環境問題である。それらの中で、私は「資源ナショナリズム」の浸透が今後の日本の平和を脅かす最大の脅威となるのではないかと思うので、このことについて考えてみたい。

産業革命以後、資源利用が飛躍的に増大した先進国は、植民地に存在する資源を自国の企業に開発させ管理するようになった。ところが、20世紀後半、植民地は次々と独立を遂げ自国の資源を自国のものにしようとする動きが高まってきた。そして、1962年、国際連合で「天然資源に対する恒久主権の権利」の宣言が出された。その内容は@天然資源が保有国に属し、資源保有国の国民的発展と福祉のために用いられるべきことA資源開発に従事する外国資本の活動について、資源保有国が種々の条件・規制を課すことができることB資源開発により得られた利益は、投資側と受入側との協定に従って配分されねばならないこと、である。

これらの考えから、先進国の企業の国有化が行なわれたのである。1973年の石油危機において、「資源ナショナリズム」はその威力を発揮し、石油価格は急激に高騰し、先進国経済に大きな打撃を与えた。

私たちは、「資源ナショナリズム」が世界平和の「脅威」となることはもうすでに何度も経験している。第1次、第2次オイルショック、湾岸戦争、イラク戦争などである。最近では、平成16年度の輸入原油の平均価格1バレル当たり38ドルであったが、平成17年度は55ドル、平成18年度は63ドルに急騰し、この傾向は現在も続いている。ゴールデンウィーク直前にガソリン価格が5円近く値上がりしたとの報道もつい最近のことであった。

しかるに、資源を持たない先進国日本はこの「資源ナショナリズム」の脅威にあまりにも無防備ではないか。そう考えると日本の「平和」はとてももろく、危険な存在ではないかと思う。

こうした「資源ナショナリズム」の脅威は、石油ばかりでなく至る所に存在している。電子立国日本を支えているのは、レアメタルと言われる希少金属であるが、今、この価格が急騰している。また、必要量の確保も難しくなってきているというのだ。

こうした現状から、東北大学では、資源の再利用として、破棄された電子機器や電気製品から希少金属を取り出そうという研究が進められているそうだ。まさに資源のない国日本が資源を開発しようという試みだ。また、日本だけでなく、海外からも廃棄された電子部品から希少金属を含む部分を輸入し、日本の高度な技術力によって希少金属を取り出し再利用しようという試みも始まっている。

私は、このような21世紀の日本を取り巻く現状を考えると、MOX燃料を使用するプルサーマル計画の推進は資源のない国日本にとっては当然の選択肢ではないかと考えてしまう。また、高速増殖炉を再開し日本の高い技術力をしてさまざまな問題を克服しようとする方向性を堅持すべきだと思う。たしかに、こうした計画の危険性を訴える人たちの気持ちも理解できる。しかし、資源のない国日本が「資源ナショナリズム」の脅威から、安定的に国家の安全と国民の平和も守り、維持し、発展させることを考えた場合、私たちはもっと大きな視点に立って考えるべきでないだろうか。

原子力発電に欠かすことのできないウランも、カナダのウラン鉱山の事故や、世界的な生産減少の影響を受けて、2000年に比べると10倍以上値上がりしている。日本は使用済み燃料を再利用する方向に勇気をもって踏み出すべき時に来ていると私は考える。

環境先進国として、脱原発を政策として明確に打ち出し、老朽化した原子力発電所の廃棄などを積極的に推進してきたドイツが、原子力発電をエネルギー政策の根幹に据えるように方針転換を図った。その背景には、ロシアのエネルギー戦略に脅威を感じたからである。ドイツは天然ガスをロシアからのパイプラインに依存している。このように自国のエネルギーを他国に依存することの危険性にドイツ国民が目覚めたからだと考える。

自国の産業の生命線であるエネルギーを、極力自国でまかなえるほうが望ましいのはいうまでもないことである。私たち日本人も自国の平和を他国にゆだねる危険性に目覚め、真に自立した国家へと歩み出す勇気を持つべき時期に来ていると私は考える。


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