[原子力産業新聞] 2007年10月26日 第2401号 <8面>

〈文部科学大臣賞〉北海道教育大学附属函館中学校(北海道)・2年 鈴木 翔 安定した電力を確保するためには

僕は、エネルギーのことでいつも思っていたことがあります。それは、お金のかからない太陽の光や風をもっと利用できないかということでした。実際、僕の住んでいる函館市にも風力発電の風車が数基あります。そんな中、昨年の夏にドイツのドレスデンにホームステイすることになりました。ドイツは、風力発電量が世界一、ヨーロッパ全体の風車(発電機)の約半分があり、原子力に頼らないエネルギー政策を進めていると聞いていたので、ドイツでは人々のくらしやエネルギーについて調べてみることにしました。

まず驚いたのは、家族や地域みんなで取り組む節約の習慣です。デポジット制度というリサイクルシステムがあったり、泊まった家では、不必要な照明は必ず切ることが徹底されていました。家族みんなが集まる部屋でさえも、ソファーやテーブルの周りだけの照明で、広い部屋には薄暗い場所もありました。

また、太陽の光を利用して黒いパネルの上に細いガラス管が通っている太陽熱温水器を使っていました。簡単そうな装置でしたが、日本円で60万円ほどで、そのうち4分の1がザクセン州や市の補助があるそうですが、採算をとるには25年ほどかかり、それまでに温水器は壊れてしまうだろうとホームステイ先のハンセさんが説明してくれました。

風力発電の風車はドレスデンでたくさん見ることができましたが、1基建設するのにかなりの建設費がかかり、故障などをしないように行なうメンテナンスにも継続的に費用がかかるということでした。建設に当たっては、風向き、風の力、風の持続時間、得た電気エネルギーをどこに売るかなど、いろいろな調査をしてから建設するそうです。

日本に帰ってから、日本の自然エネルギーについて調べてみました。まず、風車を設置するには、風の質ということが大切なのだそうです。風が極端に強くても、羽や機械の故障の原因となるのです。そのうえ、日本は山間部が多く、安定した風を得ることが難しい地形であるということも指摘されています。

そういえば、僕の住んでいる町の風車も、ブレードという部分を取り替えたり、予定していた電力を確保できないことも報道されていました。また、1基当たりの発電量があまり多くないため、中型の火力発電所分の電力を得るためには、1,000基以上の風車を建設しなければなりません。太陽光発電も、ある程度の電力を得るには、広い場所を必要とします。そのため、自然界にあってお金がかからないと思っていた風や太陽光のエネルギーの利用だけでは、今の日本の電力をまかなうことはかなり難しいということが分かってきました。

今年の夏は猛暑が続き、お盆明けには東京電力の供給電力が、限界に近づいたことが報道されました。もし、停電となったら、日本中が大混乱し、暑さによりたくさんの死者が出ることも予想されていました。運良く、最悪の事態は避けられましたが、今後とも厳しい状況は変わりません。

今、日本の電力事情を考えたとき、石油・天然ガスなどは、地球温暖化や資源を確保する課題があまりにも多く、すぐには改善しません。その救世主の1つが、二酸化炭素の発生がとても少ない原子力だと考えています。しかし、原子力発電所の事故が続いたり、「原子力=危険」というイメージがあるうちは、安定し続ける電力の確保はなかなか進んでいかないと思います。

ホームステイでお世話になったハンセさんが、「ヨーロッパは他の国から電気を買うことができるけれど、日本は海に囲まれているので、難しいね。その国に合った方法で、電気を確保すること。これが大切なことだよ」と教えてくれたことを思い出しています。日本に合った電力確保、それは「原子力=安心安定した豊かなくらし」という意識への転換と、それを支える高い安全技術だと思います。


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