[原子力産業新聞] 2007年11月1日 第2402号 <2面>

「環境、エネルギー・原子力」女性リーダー像(4) WIN‐グローバル、WIN‐ジャパン会長 小川順子氏に聞く
「現場の興味伝えたい」が原点 国際舞台に挑戦、女性人脈を武器に飛躍を

―慶大文学部卒で、どうして原子燃料加工専門会社に就職したのか。

小川 大学卒業当時は第1次石油危機後の大不況に加え、特に4年制大卒女性の就職難時代で大企業はほとんど門戸を閉ざしていた。そんな中で出身地の横須賀では唯一、外資系の日本ニュクリア・フュエル(JNF)が秘書として英語のわかる女性を募集していた。これが、その後30年以上のお付き合いになる原子力との出会いだった。

JNFでは入社後の新人教育でウラン燃料棒の検査工場に配属され、最初に現場を経験できたことが原子力に興味を抱く大きなインパクトとなった。研修期間が終わり秘書部勤務となった後も機会を見つけては現場に入り込み、ウラン燃料を作る現場の空気、におい、手触りを体験、また素人の視点で感じた疑問をその都度専門の担当者に聞いて勉強するうちに、自分が「面白い」と思ったことを他人にも伝えたくなった。これが、原子力広報に身を置く原点であり、一貫してその道を追い求め今日の私がある。

―WINとの出会い、日本組織設立のいきさつは。

小川 WIN(Women In Nuclear)は、原子力に携わる女性であることがメンバーの資格で、職業人であると同時に主婦・生活者でもある女性同士が世界的に連携して活動する国際組織。原子力に誇りを持ち、原子力の平和利用推進の立場で一般市民の理解促進に貢献していくという明確な目標がある。私は、原子力施設は国民共通の財産であり、国民がより幸福になるよう有効に使っていくべきだと思う。そうした強い使命感が、いかなる逆風にあっても「決してあきらめず、ひるまず」という力となっている。

93年に欧州でWIN―グローバルが設立されたことを知り、JNFは外資系だし国際的つながりのある方が仕事上もプラスだと思い会員になった。入会してすぐスウェーデンでWIN世界大会があり、初めての海外出張で参加、いろいろな国のマスコミからインタビューも受けた。

また、世界大会では、「Energy gives women liberty」という言葉に感動、「私たちが原子力エネルギーを推進していく根本的視点は、全世界の女性たちが人生の選択の自由を手にするために意義のある仕事」ということだと再認識した。

一方、WIN世界大会が98年にアジアで初めて台湾で開催され、さらに02年には韓国にも先を越されるに及び、世界3番目の原子力大国日本として何よりも日本組織設立を急ぎたいとの思いに駆られた。しかし、それにはJNFやメーカーだけではなく電力会社の支援を必要とした。そんな折、日本原子力発電から移籍の話があり、私の希望を伝えたところ前向きに受け止めてもらえたこともひとつの動機になり原電に入社、1年余の準備期間を経てWIN―ジャパンを設立できた。

―そして、04年に日本での年次大会初開催を実現、同時にWIN―グローバル会長に就任して4年目を迎えた。

小川 私はWIN―グローバル会長として、特に組織運営が閉鎖的にならないようオープンにし民主化することを心がけた。具体的には、数年間休眠状態だった機関紙を3か月ごとに定期的に発刊、全世界から参加する理事会の定期開催、WIN表彰候補の公募制導入、93年設立以来となるWIN規約の大改定、国別組織の拡大などだ。この結果、カナダ、中国をはじめ、南アフリカ、スロベニア、インド、パキスタン、メキシコなどの国々が新たにWIN組織を立ち上げ、現在68か国・地域に、2,000名の登録会員がいる。WIN―グローバル会長任期は来年5月までだが、05年に世界原子力協会(WNA)からWINおよび会長の私に「原子力功労賞」が授与されたことで、1つの形として評価いただけたのではないかと感謝している。

私は今、WIN会長の経験から改めて「当たり前のことを当たり前にこなしていくこと」の大切さを感じている。国籍に関係なく、ひたむきに努力していることが周りの人に分かれば必ずサポートしてもらえる。特に日本人のこうしたキチンとした生真面目さは各国から良い特質として、信頼され期待されている。

ただ残念なのは、日本からの発表がとても少ないこと。語学が1つの壁になっていると思うが、WINでは、英語のネイティブ・スピーカーはそれほど多くはないので、失敗を恐れず国際舞台に積極的にチャレンジしてほしい。そうして海外に人脈を持ち、それを1つの武器として力を高めてもらいたい。

原子力の理解促進に近道はない。地道で終わりのない根気仕事である。一歩進んだと思っても明日トラブルが起これば振り出しに戻る。だからこそ私は、いつも「明るく、楽しく、元気良く。苦しいことも味わい尽くす」をモットーに日々新たに生きていきたい。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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