[原子力産業新聞] 2007年11月29日 第2406号 <2面>

クローズアップ 日本国際問題研究所タスクフォース座長 元原子力委員会委員長代理 遠藤哲也氏に聞く 洞爺湖サミットへ政策提言 平和利用と核不拡散・軍縮の新秩序構築

―来年の北海道洞爺湖サミットに向けた政策提言を日本国際問題研究所(国問研)のタスクフォースで検討していると聞く。その背景、狙いは。

遠藤 2008年7月にG8サミットが北海道の洞爺湖で開催される。日本でのサミット開催は、沖縄に次ぎ8年ぶり。来年1月1日からは日本が議長国となりその責任は重いが、G8全体の議論の流れをリードし、サミット宣言文・議長声明を起草できるチャンスであり、日本のリーダーシップが問われる。昨今の世界情勢を考えると洞爺湖サミットでは地球温暖化対策が最大の議題となろうが、このところの原油価格高騰も加わり、環境と資源問題を同時解決する切り札として発電過程でCOを排出しないクリーンな原子力への関心が世界的に高まっている。特に、原子力先進国でのリプレースもさることながら、中国、インド始め発展途上国における原子力発電導入機運が増している状況をしっかり認識する必要があろう。

一方、原子力は人類が初めて開発した巨大な技術エネルギーであり光と影≠フ両面を持つ。不幸にして今影≠フ部分が世界中に拡散する傾向にあり、今後、途上国が原子力発電所を相次いで導入すれば、そうした核拡散リスクがますます拡大する。さらに安全運転の確保、放射性廃棄物処分など人々に不安を与える問題も抱えている。それだけに、ここで原子力をもう一度NPT(70年、核不拡散条約)の原点に立ち戻って見直し、「どうしたら光の部分を拡大し影の部分を抑え込めるか」を再検討すべき時を迎えている。

このような現状認識に立ち国問研(外務省の外郭団体)は、NPTの基本理念である原子力の平和利用と核不拡散およびテロ対策を含む核軍縮の鼎立を図る「原子力の新秩序構築」をテーマに、タスクフォースでその具体策を検討し、洞爺湖サミットの宣言案として民間から日本政府に政策提言する作業を進めている。正式名称は、「新しい核の秩序構想を検討するタスクフォース」で、その座長を私が務め、メンバーは各専門分野から岡ア俊雄・日本原子力研究開発機構理事長、秋元勇巳・日本原子力産業協会副会長、伊藤隆彦・原子力委員、浅田正彦・京大教授、吉田寛・京大教授、小川伸一・防衛省防衛研究所研究部長、内山洋司・筑波大大学院教授らがいる。

―提言案の骨子は。

遠藤 タスクフォースでは年内に報告書をまとめ、年末か来年早々には日本政府に提出する。提言書はA4版10ページ程度の英文表記とし、@序文A核不拡散と原子力平和利用の両立B核軍縮・テロの防止C結論の4部で構成されている。

全体の中心となる「核不拡散と平和利用の両立」では、今や途上国で原子力発電導入機運が高まっているが、その際どうしても守ってもらわなければならない条件として「3つのS」が必要不可欠となる。それは、セーフ・オペレーション(安全運転)、セーフガード(保障措置)、セキュリティー(テロ対策など)で、加えて国際的基準に沿った原子力賠償制度が整っていることも重要だ。

それには、途上国が原子力を導入する際、「最少限守るべきガイドライン」のような規定をつくる必要があろう。誰がつくるのかは特定していないが、多分、国際原子力機関(IAEA)の役割になるのではないか。同時に、一方的にガイドラインをつくり途上国にそれを遵守しろといっても現実には困難なため、ガイドラインを守れるよう先進国、特にG8が率先して途上国に協力することが前提となる。

協力方法には人材育成、財政支援等いろいろあるが、ポスト京都議定書のCO排出削減の枠組みの中で原子力の役割を認める、つまり原子力をCDM(クリーン開発メカニズム)の対象に認めることが有力な手段となる。しかし、米国は京都議定書を離脱したいきさつから、「CDM」という言い回しを変えなければ絶対反対のようで、表現に工夫が必要だろう。

もう一点、G8は原子力新規導入国への核燃料供給保証について極めて前向きだ。「核燃料供給保証・核拡散防止」に強制力はないが、各国とも経済合理性に基づいて行動するだろうという前提に立ち、真正面からこの問題に取り組む。日本も今後、ドメスチックな殻から抜け、六ケ所再処理工場の国際化等を真剣に検討する必要があろう。

また、NPTの不備を補う支えとして、追加議定書の普遍化が課題。追加議定書批准の法的義務化は難しいとしても、少なくともG8と有志国間の「輸出条件」にできないかを検討している。さらに、G8で核不拡散を声高に唱えるには、核兵器保有国の軍縮が議論の前提になろう。大局的には、米ロ二国間の核削減の新しい枠組み構築が急がれる。

いずれにしても、核不拡散と平和利用両立の要は、今後たいへんな勢いで原子力発電所の新増設が進む途上国をどのように秩序ある国際協調・協力のレールに乗せていくかの方策を示すことにあると考えるし、洞爺湖サミットでは原子力利用でそこまで踏み込んだ議論をすべきではないか。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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