[原子力産業新聞] 2008年1月7日 第2410号 <10面>

【企画記事】浜岡 耐震裕度工事の概要 目標地震動「1,000ガル」 プレート境界型地震等に対応

中部電力では同社唯一の原子力発電所である浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の耐震裕度向上工事を鋭意進めてきており、3号機〜5号機の改造工事は今年度末の完了を目標に、主な工事はすでにほぼ終了している。今後、1号機、2号機の改造にも着手し、最新の知見や教訓を常に取り入れながら、プレート境界型の想定東海地震にも耐え得るより安全な原子力発電所をめざしている。今号では、2面にわたり、浜岡原子力発電所の耐震裕度向上工事を開始した経緯から、原子力安全委員会による新耐震指針の決定、1〜4号機の運転差止裁判の静岡地裁判決、さらには昨年7月に発生した新潟県中越沖地震の教訓の反映などについて取りまとめた。

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独自に改造決断

浜岡原子力発電所の耐震裕度向上工事の実施については、05年1月28日、川口文夫社長(=当時、現会長)が定例記者会見で発表した。浜岡5号機が営業運転を開始(18日)した直後のタイミングだった。

記者会見で川口社長は、「現状でも想定東海地震を上回る、この地域での限界的な地震(マグニチュード8.5)の揺れに対しても耐震安全性を確保しているが、改造工事の結果、想定東海地震の2倍から3倍に相当する揺れに対しても耐震裕度を確保できることになる」との見通しを示した。

中央防災会議(会長=小泉純一郎首相、当時)で想定東海地震の震源域の見直しが行われ、同会議の専門調査会での審議を通じて、地震に対するさまざまな調査研究が進み、新たな知見などが明らかになってきた。一方、原子力安全委員会では「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の検討が進行中ではあったが、同指針の改訂作業とは区別して、中部電力は基準地震動S2を上回る地震動を独自に設定した。

中央防災会議では、想定東海地震の想定震源域では、100年〜150年おきに大規模な地震が繰り返し発生してきているが、1854年に発生したマグニチュード8.4の安政東海地震の後、すでに150年以上が経過し、大規模地震が発生していないことから、いつ発生してもおかしくないと考えており、その地震を「想定東海地震」と称し、マグニチュードとしては8.0を想定している。

そこで中部電力では、このマグニチュード8.4の安政東海地震の地震動に余裕をみて設定している基準地震動S2に、さらに約3割程度の余裕を持たせた目標を設定した。

目標地震動を設定するに当たり、まず、水平地震動については、図に示すように当時の同発電所の基準地震動S2「600ガル」(短周期側、岩盤上)に対して、中央防災会議の想定東海地震の地震動「395ガル」の応答加速度を参考にして、短周期側(岩盤上の機器など)および長周期側(排気筒などの大型長尺構造物)に特に余裕を多く持たせると共に、中間周期領域(配管類など)を含め、全体的には現行値の3割程度の余裕を持たせて、水平方向は極短周期側で「約1,000ガル」、鉛直方向で「約700ガル」の目標地震動を決めた。

なお、浜岡全5基とも、原子炉建屋地下2階の基礎上の地震計で、震度5強程度の揺れに相当する「150ガル」以上を感知すると、直ちに全制御棒が原子炉の下から自動的に挿入され、原子炉を自動停止する仕組みになっている。

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作業スケジュールは4、3号機を先行させ、次いで5号機の耐震評価、改造設計、改造工事などを行なってきた。

耐震評価では、まず耐震設計上重要な建物・構築物、機器・配管類、これらの支持構造物などを対象に、耐震上の余裕を評価し、改造が必要な施設・設備を洗い出した。

この結果、原子力発電設備のうち、安全上特に重要な、原子炉を「止める」「冷やす」「閉じ込める」の機能を有する原子炉建屋、原子炉格納容器、非常用炉心冷却系ポンプ、制御棒などは耐震設計上の余裕が大きく、その当時のままでも改造工事が必要ないことを確認した。

改造工事は、4号機の地面に埋めてある配管ダクト周辺の地盤改良工事を05年12月から着手し、3〜5号機は約2年間の改造作業で08年3月までにはすべて終了する予定だ。改造は対象設備や機器によって、プラントの停止時にしか行えない作業や狭い場所での作業などもあり、きめ細かな作業工程を組んで進めた。

1、2号機については、3〜5号機に比べて改造規模が大きくなる見通しのため、現在では2011年3月までに終了する予定だ。

改造費用は、3〜5号機の場合で各プラント数十億円から100億円程度となる見込みだ。


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