[原子力産業新聞] 2008年1月7日 第2410号 <2面>

展望 未来を信じ、いまを切り開き前に進もう

今年の日本の原子力界は、山登りに例えれば、遠くの空の明るさとは対照的に、周囲はまだ霧に囲まれ足元は不確かな状況ではあるが、出発しないわけにはいかない、と言うところだろうか。

4月からは、歴史的にみても第2の改革期と言っても過言ではないような、原子力発電所に対する新検査制度の導入が予定され、安全規制が科学的・合理的に行われる方向をめざすと同時に、電力会社はより厳しい自己管理を求められる道に入ることになる。現場を一番知るのは、現場で働く人たちであり、事業会社だということを、規制当局も事業会社自身も地元自治体も、社会全体が一様に合意し受け入れていかなければ、新制度の理念がなかなか生かされないことになりかねない。

高経年化する原子力発電所がしだいに増加してくる中で、地味ではあるが、新検査制度の導入が、現場の主体的な活性化につながり、経験の積み重ねでより安全で効果的な原子力発電所の誕生となることを期待したい。

原子力の研究開始から半世紀が経ち、研究炉の建設、海外からの発電炉導入、大型化へと進み、世界で日本だけにある大型の新型原子炉ABWRを含む世界第3位、55基の原子力発電所を保有するまでに至っている現状を直視し、設計審査重視から運転・保全管理重視に思い切って方向を転換し、プラント運転中の検査にも重点を置いた新しい安全規制への移行となる。

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今年は7月にG8洞爺湖サミットが開催され、その前の6月にはG8エネルギー相会議が青森県で開催される。昨年12月の国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13)の後を受けて、エネルギー安全保障と地球温暖化防止に向けての日本のリーダーシップ発揮が求められるが、その主張を支えるベースとなるのはわが国の省エネ技術と原子力技術の高さだ。

世界の中では、石油価格の高騰を受けて、先進国の地球温暖化防止策の1つ、石油代替燃料としてのバイオマス燃料の生産が加速している。そのため、食用穀物量が減って価格が高騰し、貧しい途上国の人々の食生活をむしばみ、また、生活のために熱帯雨林の破壊が進むなどの皮肉な結果をも生んでしまっている。「食糧を燃料に転換」するバイオ燃料には持続可能性はみられない。

21世紀は、食糧、水、エネルギー資源、清浄な大気の確保が重要となり、これらのすべてに大きな複合的悪影響を及ぼす二酸化炭素の放出を、いかに抑制していくかが人類全体の課題だが、もはや「かけがえのない地球」「宇宙船・地球号」などと唱和しているだけで具体的な方策を採ることが遅れれば遅れるほど、その間に、海面上昇によって国そのものの存在さえ危うくなってしまう国が増えることを忘れてはならない。

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原子力発電を進展させるとき、もう1つ考慮しなければならないことは、原子燃料供給・リサイクルと核不拡散の問題だ。日本の三大重電メーカーが核となって世界の原子炉製造メーカーの再編が進んでいるが、急拡大する原子力市場に対応する燃料供給体制には不透明な点もまだ多い。国際原子力機関(IAEA)が提唱する燃料供給保証体制を実現させるためには、主要関係各国の受入れ・協力が不可欠だが、もう一方で、ウラン濃縮や再処理技術を持たない国々の信頼が寄せられる体制をいかに確立するかも重要なことであり、信頼醸成に向けた対話と時期がまだ必要かも知れない。

世界の原子力動向のカギは、やはりいまでも世界最大の原子力発電国でもある米国の方針がどうなるかであり、核不拡散条約(NPT)に加盟せずに独自の原子力開発路線をとって核保有にまで至ったインドとの原子力協力協定の行方が、今年進展するかどうかが焦点となる。

今年は米大統領選挙の年でもあり、共和党政権の継続か民主党政権への交代かはともかく、どちらの政権になっても、昨年4月に日米四閣僚がワシントンで署名した「日米原子力エネルギー共同行動計画」をベースに、日本との協調路線を取ることを望む。

また日本政府とロシア、カザフスタンとでそれぞれ行っている原子力協力協定締結に向けた動向も留意しなければならない。それによって、日本のメーカーも燃料供給を含め、大きな影響を受けることになるだろう。

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柏崎刈羽原子力発電所の全7基の停止が地震の影響でいつまで続くのか、それが国内最大の課題であるが、そのことを論ずることは、科学的にも技術的にも、また社会的にも時期尚早とはいえ、昨年の夏季電力需要に対応する厳しさや、二酸化炭素放出の増加など柏崎刈羽原子力発電所停止による悪影響は、すでに顕著となっている。科学的・合理的プロセスによる耐震性評価と耐震補強によって、全基の一日も早い運転再開が望まれる。


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