[原子力産業新聞] 2008年1月17日 第2412号 <3-4面>

新春特別座談会 洞爺湖G8サミットへの道標 ――「原子力と向き合う」
原子力発電グローバル化 新時代の幕開け
世界同時発展を可能に
温暖化防止・エネルギー安保を両立

甘利 明氏 経済産業大臣
 岡崎俊雄氏 日本原子力研究開発機構理事長
 勝俣恒久氏 電気事業連合会会長
 佃 和夫氏 三菱重工業社長
 (司会)原子力ジャーナリスト・日本原子力産業協会嘱託 中 英昌

地球温暖化対策が焦眉の急となり、原油百ドル時代・第3次石油危機さえ懸念される中、2008年の幕が開いた。昨年12月にインドネシアで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP13)では、2013年以降のポスト京都議定書の協議に米国、中国、インドなどCO 主要排出国すべてが参加する新たな枠組み「バリ・ロードマップ」が採択され、いよいよ温暖化ガスの具体的な削減方策・進め方を本格的に議論するスタート台に立った。そして、今年は日本が議長国となり国際政治のイニシアチブをとる洞爺湖G8サミットが7月に開かれ、日本の指導力が問われる。とりわけ、温暖化防止とエネルギー安全保障の切り札で、基幹電源として必要不可欠の原子力発電をどう位置付けるかが焦点の1つ。そこで各界トップの方々に参加いただき、未だわだかまりの色濃い「原子力」と向き合い、世界的潮流、役割、課題等を検証した。(文中敬称略

温暖化防止の主役は原子力 「原子力CDM」も議論のテーブルに
(1)地球温暖化 防止と原子力の役割・位置付け

司会 CO排出削減の切り札と言われながら「原子力の顔」が定かでない。日本が議長国となる7月の洞爺湖G8サミットへ向けて原子力をどう位置づけるのか、甘利大臣のお考え、全体的問題提起を最初にお願いします。

甘利 原子力エネルギーは、エネルギー・セキュリティーと環境保全の両面で極めて優れている。ただ、高レベル放射性廃棄物の処分が未解決の課題として残されており、この“出口”をきちんとさせ、発電所の運転の安全徹底を前提にすれば、これほど優れたエネルギーは他にない。例えば、在来の化石燃料の発電所を、現在の原子力発電所2基に置き換えると、わが国のCO排出量を1%削減できるぐらい強力かつ安定的なエネルギーであり、少資源国・日本にとってみれば、継続的に燃料供給をしなくても、そのまま定格出力を出し続けることができるという意味でも極めて優れたエネルギーだ。

しかし、その原子力が未だにすっきりと認知されないのは、原子力への逆風がようやく治まり「原子力ルネサンス」と言われるような追い風に転じた現在でさえ、原子力発電を地球環境保全・温暖化防止と強力にリンクして考えている国がまだ少ないことに起因している。特に、EU(欧州連合)の中で原子力推進が大勢になっていないことが問題だ。だが、EUの中でもドイツは別に、原子力推進に転じる国が最近増え始めているので、原子力を取り巻く環境は様変わりしつつあると思う。

そこで、今年7月の洞爺湖G8サミットに向けてどのような道筋を描いていくかが重要になる。昨年12月にバリ島で開催されたCOP13におけるポスト京都議定書の議論では、京都議定書から途中離脱していた米国やCO削減義務を負っていない中国、インドなど、世界のCO主要排出国の全員参加が決まった。排出削減の数値目標設定では合意に至らなかったが、まずは「全員参加」が最大の課題だったので、この枠組みは構築できたわけだ。ではこれから、どういうアプローチをするか。日本が主張している「セクター別アプローチ」も記載され、選択肢の1つとして認識されている。さらに、「原子力発電」をどう位置付け利用していくのかについても、今後2年間で次なるポスト京都の仕組みが決まるので、そこへの道筋でどう取り込んでいくかが大事だ。

これから30年ぐらいの間に、世界は新たに約150基の原子力発電所を建設していくものと見られる。そこに日本の経験と技術が極めて強く活かされていく必要がある。そういう中で日本は主導権をとって環境負荷を低減させていく強力な国であるという認識を、世界中で共有してもらうべく努力をしていく余地が大きいと思っている。

司会 それにしても原子力は発電過程でCO排出ゼロ、また、エネルギーセキュリティーへの貢献も大きいにもかかわらず、どうして未だに“世界的市民権”を得られないのでしょうか。

甘利 これから洞爺湖サミットに向けていろいろな大臣会合が予定されている。例えば私が参加する例では、エネルギー大臣会合を6月に青森で開催する。青森を選んだのは、再処理工場を始め原子力関係施設が集中していることも大きな要素となっている。青森で世界のエネルギー担当大臣に、エネルギーセキュリティーの観点と地球温暖化防止の観点をしっかり現場で認識してもらわなければならない。ただし、なぜ原子力のエネルギー利用がまだ世界で普遍的なものにならないのかと言えば、基本的には「核技術」であり、本来、核保有国の独占的だったものを保有国以外に解放していくという作業なので、当然、火力発電所をつくるのとは次元がまったく異なり、それなりの手順と、ある種の制約をかけながら進めていくことが必要だからだ。さらに安全の確認あるいは核燃料供給体制等、環境整備もまだまだ必要だ。

原子力が何十年も前から広く認知されていれば、それほど手間もかからないが、スリーマイル島事故(1979年)やチェルノブイリ事故(1986年)以降、世界的に極めてネガティブな環境からスタートして、日本の主導でやっと今日のニュートラルに近いところにまで戻したという状況にある。今後はようやく本格的な原子力の議論ができるようになるだろう。今までは冷静な議論すらできなかったので国際的な協議のテーブルにさえ乗らなかった。これからも、それなりの努力は必要だと思う。

司会 もう一点、今年末の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP14)で原子力が懸案のCDM(クリーン開発メカニズム)の対象に入る条件、可能性も含め、ご意見ください。

甘利 CDMというのは、CO排出削減目標を達することが困難な場合に途上国に先進国の技術を移転して途上国の排出削減を助ける代わりに、その分を支援した先進国の削減としてカウントできるという仕組みなので、きちんと達成前と達成後の検証ができることが大事だ。ホットエアの取引のように結局、削減効果が上がっていないようなものではなく、CDMでは実際に排出されるCOの量がすぐにも変わるので、その減少分をきちんとカウントできる“客観的物差し”が必要になる。ただし、物差しに関する合意や、CDMの対象に原子力を織り込んでいくための合意を得るには、やはりまだ相当の努力が必要だと思う。

司会 ありがとうございました。それでは勝俣会長、CO排出削減に原子力発電がどれだけ有効かつ貢献しているのかを分かりやすいデータでご紹介いただきながら、電力業界の対応をお話しください。

勝俣 2006年度の日本のCO排出量は速報値ベースで12億7,500万トンだが、原子力発電のCO排出抑制効果は2億3,500万トンで、全体の18%、2割弱がその中で貢献している。

別の言い方をすれば、原子力の設備利用率が1%上がると約300万トンのCOが削減でき、京都議定書のCO排出削減目標の0.3%に相当する。こうしたデータでお分かりのように、原子力はCOの排出削減にたいへん有効だが、実際は、これまで種々のトラブルや地震等が続き、日本の原子力の設備利用率がなかなか上がらない実態にある。私ども事業者が、何よりもまず安全を確保し、安定運転を継続していくことが前提になるが、この原子力の利用率をいかに上げていくかというのは、地球環境問題への対応においてもたいへん重要な課題だ。

それには、基本的には原子力発電所現場の品質管理の徹底が第一。もう1つは、例えば現行の原子力法体系では、電気事業法と原子炉等規制法による言わば規制の“二重管理”になっている点を含め、科学的、合理的な規制への移行を進めていく必要がある。まず、こうしたことに着実に取り組んでいくことが基本だ。その上で、現在の原油価格の高騰等を考慮すると、経済性でも原子力は極めて有効なので新規電源も着実に建設していきたいと考えている。

司会 今お話のように、電力業界では原子力発電所の設備利用率向上に向け、さまざまな取組みをされているわけだが、それに加え、自主行動計画の達成のため海外からの温暖化ガス排出クレジットも購入している。地球温暖化対策の一つのキーワードとなっている「排出権取引・市場」の国内適用議論も出る中、勝俣会長のご意見を伺いたい。

勝俣 取引市場そのものは、いろいろな意味で今後さらに拡大していく可能性も高いし、私どもはCDMとして認知されたCO排出クレジットを市場から購入することも考えている。一方、国内排出権取引、いわゆる“キャップ・アンド・トレード”という意味で言うと、排出義務の割り当てのようなところがあり私どもは反対している。言わば戦時中の「電力割り当て」のようなイメージがあり、経済の活性化をそぐのではないかと懸念している。

司会 その場合、先ほど甘利大臣からもお話があった「原子力CDM」の“客観的物差し”についてどうお考えですか。

勝俣 「原子力CDM」とよく言われるが、選択肢が広がるという意味合いではいいが、甘利大臣が言われたように、定義そのものが非常に難しいと思う。投資といった意味で割り切ればまた1つのあり方だが、いろいろな技術協力等々をどう見るかとなるとたいへん難しいので、よく議論しながら考えていく必要がある。一足飛びに「原子力CDM」 が実現するとは考えていない。

司会 では甘利大臣、洞爺湖サミットに向けての温暖化対策議論の中で、「原子力CDM」 の定義問題も入ってきますか。

甘利 要は、「原子力を抜きに地球温暖化防止はできない」という認識を共有することが大事である。ガイアの理論で世界的に著名な科学者ラブロック博士は原子力の必要性を認めている。また、行動的な環境保護団体グリーンピースの共同創設者で闘士だったパトリック・ムーア氏も、かつて原子力反対の先頭に立っていたリーダー層だが、「たとえ変節者と言われようとも、原子力なしに地球を温暖化から守れない」と公言して回っている。これが現実であり、それを真正面から見なければならない。ほんの1年ほど前までは、エネルギーの本丸である国際エネルギー機関(IEA)ですら原子力発電を評価せず必ずしも肯定的ではなかった。これは異常なことだったが、今やIEAは原子力を極めて重要な電源に据えるようになっている。このような状況から少しずつ変えていくわけなので、なかなか世界全体を変えるのは簡単にはいかない。いかないけれども、反対派の理論的後ろ盾、反対派の大看板になっていた人が、科学的にしっかり検討した上で、一刻も猶予ならない地球温暖化の状況を踏まえて、もう原子力発電しか選択肢はないと主唱しているのだから、これは世の中が変わり始めるきっかけになったように思う。

司会 甘利大臣が言われたように、エネルギーの代表的な国際機関であるIEAも、また国連のIPCCも原子力の有用性を認めるようになったが、そうした流れを踏まえ、岡ア理事長、原子力機構・原子力技術研究開発の視点からお話しください。

岡ア 将来の社会、経済の発展にとり最も大事な基盤であるエネルギーの問題について、例えば、アジア、中東、アフリカあるいは南米でさえ、原子力発電に新たに取り組もうという動きが広がっている。甘利大臣からもご紹介あったように、世界全体で原子力発電が近い将来、量的に倍増する時代を今われわれが迎えようとしている。こうした国際的な原子力の広がりに対して7月の洞爺湖G8 サミットで何をすべきかといえば、第一に、安全運転の「セーフティー」、テロ対策等の「セキュリティー」、核不拡散を含めた「セーフガード」の“3S”が、国際的な原子力に取り組む不可欠な要素であることを確認し、われわれ原子力に取り組んでいる国が責任を持ってこの科学技術の確立に努力していくことがたいへん大事ではないか。原子力機構も、そうした観点に立ち自らの役割を果たしていきたい。さらに、技術の将来発展を考えると、地球温暖化防止およびエネルギー・セキュリティーは単に今世紀の枠内にとどまらず世紀を超えた取り組み、将来に向けての技術開発を進めていかなくてはならない。こういう課題をしっかりとこなしていくことが肝心である。

具体的にはまず、今の軽水型原子力発電所を安定的な基軸電源として定着させていくことは当然ながら、将来のウラン資源の制約、あるいは甘利大臣も指摘された使用済み燃料の管理や高レベル放射性廃棄物をできるだけ環境負荷を低くするような形で、原子力先進国としては将来に向けた高速増殖炉(FBR)サイクル技術の開発に取り組んでいくことが大事だと思う。さらに長期的には、できるだけ早く「炭素依存社会」から「脱炭素社会」へ切り替えていかねばならない。そのために、私は水素社会が一つの大きな目標であろうと思う。ぜひその水素社会の実現に向けて、輸送問題等のインフラ整備、あるいは、石油精製や製鉄といった製造分野における質の高いエネルギー利用の観点からも、原子力は将来ますます大事になってくる。さらに、最終的には人類の究極のエネルギー源である「核融合」の実現を目指す。

私ども原子力機構は、こういう長期的な視野・展望を持って原子力の技術開発に取り組んでいくことが極めて大事ではないかと考えている。

司会 お待たせしました佃社長、メーカーの立場からお話しください。

 甘利大臣はじめ皆さんから今、原子力によるエネルギー・電力供給が、これからの世界のエネルギー・セキュリティー問題と環境保全問題の2つの側面から最終的な切り札になるだろうとのお話を伺ったが、いろいろなエネルギー形態を取り扱っているメーカーの立場からも、まったく同感だ。

このところ、電力としては太陽光や風力がたいへんな脚光を浴び、また燃料としては、岡アさんが言われたように、水素とかエタノール等のバイオ燃料が活発に議論されている。しかし、風力、太陽光発電は、もちろん積極的に進めていかなければならないものではあるが、どうしてもある一定の制約がある。つまり、太陽光だけでは日本の電力需要を賄うだけでも100km四方ぐらいの広大な敷地が必要で、風力ではそれ以上要る。加えて、風の状態や天候に非常に制約されるうえに、現時点ではコストが高いので、どうしても第一義的な基幹エネルギーとするには限界があり、むしろ分散型電源として限定的に利用するのが適当であろう。

また、エタノールとか水素も、使う分には環境に優しいが、何からそれらをつくるのかが問題だ。エタノールのもとの砂糖きびやトウモロコシを、どこから集めてどう発酵させて、どう運ぶのかという根源的なところまで詰めていくと、どうしてもCOの削減効果に限界があり、メーカーの立場からも原子力が第一義だと考えている。

他方、メーカーとしての原子力への問題意識は何かについては、これもすでにご指摘があったように、パブリック・アクセプタンスというか原子力に対する社会的信頼がまだまだ不十分ではないかということ。原子力プラントも次第に老朽化してくるので、私どもメーカーとしては、電力会社と共同して予防保全に努め、信頼性をさらに高め、設備稼働率の向上につなげたい。こうした努力はメーカーの重大な責務と考えている。


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