[原子力産業新聞] 2008年1月17日 第2412号 <5面>

新春特別座談会 洞爺湖G8サミットへの道標 ――「原子力と向き合う」
原子力発電グローバル化 新時代の幕開け
世界同時発展を可能に
温暖化防止・エネルギー安保を両立

GNEP構想は国際協力・連帯のシンボル

司会 それでは岡崎理事長、米国はGNEPでわれわれがあまり気付かないうちに燃料使い捨てのワンススルー政策から核燃料サイクル路線に転換したが、さらに最近は30年ぶりの原発新規建設により比重が移っているとも聞く。GNEPに直接参画している立場から、どのように見ておられますか。

岡ア 原子力・エネルギー分野および国際的な外交政策において日米協力が基軸になるのは当然で、これまで日本が原子力分野で安定した地位を築いてこられたのも日米協力あってのことだ。とりわけ、GNEPとの関係が今後、日本の原子力国際展開においてたいへん重要な役割を担っていることは間違いなかろう。そのGNEPについては今、大きく2つの位置づけがある。1つは、世界最大の原子力発電国でありながら30年近くにわたり新規の原子力発電所の建設計画が進まなかった米国が、昨今の国際状況の中で改めて原子力発電を基軸エネルギーとして位置づけ新たな建設に取り組んでいこう、それに加えて国際的にも原子力発電の供給に対して米国が積極的な役割を果たしていこう、というのが1つの大きな流れだ。もう1つは使用済み燃料の管理・高レベル廃棄物処分の問題から、米国が改めて30年ぶりにいわゆるリサイクル路線に復帰したことだ。

ただし、このGNEPは2006年にブッシュ大統領のもとで政策発表されたもので、その後の米国議会の状況、あるいは今年の大統領選挙を控えたさまざまな政治状況の下で多くの議論がなされていることは承知している。ただ私は、時間軸でどのようなスピードでGNEPに取り組んでいくかの幅は出てくるかもしれないが、基本的には今申し上げた2つの路線が恐らく米国において堅持されるだろうと見ている。

そういう中で、甘利大臣の積極的なイニシアチブで日本が米国のGNEP にいち早く参加の意思表明をしたことは、実は米国内でもたいへんな評価を受けている。なぜなら、日本の原子力政策と米国のGNEPの目指すところがまさに軌を一にしているためで、われわれの目標としているところとまったく同じだから、それに協力していくことは当然の方向であり、私ども原子力の研究開発機関においても米国の関係機関との協力関係が非常に深まってきている状況にある。

特にわれわれは、GNEP基本路線後者で、将来のFBRリサイクルに向けこれまで長年にわたって蓄積してきた技術、経験をぜひGNEPの中に生かしていけるように努力していくことが強く求められているし、われわれの計画実現のためにもたいへん大事な計画だという位置づけだ。ぜひこの方向に沿って日米ができる限り協力すると同時に、これまで日本とフランスが一緒に取り組んできたリサイクル路線の経験と協力の枠組みをうまく生かしながら、日米仏という原子力先進3国の協力関係を築いていくことが、将来の世界の原子力平和利用を安定したものにしていくためのたいへん重要な試金石ではないかと思う。

司会 佃社長、三菱重工もGNEPに直接参加している立場から何か補足していただいた上で、米国の30年ぶりと言われる「原子力ルネサンス」の実感、展望についてお話しください。

 まずGNEPについては、日本の積極的な国際協力の姿勢をたいへんすばらしいことだと受け止めており、メーカーとしても技術的な開発を中心に全力を尽くして一緒に取り組ませてもらいたいと思っている。新型次世代炉・FBRの開発は、GNEPへの参加による開発推進と同時に、日本国内でも第3期科学技術基本計画で国家基幹技術として位置づけられ、FBR原型炉「もんじゅ」に続く実証炉の開発を本格化、その中核メーカーとして三菱重工が選定された。したがって、当社は日本原燃、仏アレバ社と共同でGNEPに参画しているが、我々の提案は日本の基本技術である「もんじゅ」をベースとした技術に、アレバ社の再処理技術をカップルさせたもの。我々はメーカーとして、国および原子力機構のサポートを得ながら、「もんじゅ」をベースにした日本のFBRが世界標準炉になるようにがんばっていきたいと思う。特に技術的な面から見れば、先ほど岡アさんからお話があったように、世界で日本とフランスが群を抜いていると考えている。また、甘利大臣からご指摘があったように、技術のグローバル展開にあたっては世界の核不拡散にも配慮していかなければならないので、世界をリードしている技術を世界標準としてGNEP を中心にきちんと管理していくことが必要になってくる。こうした状況のもとで我々の活動の場が大きく広がってくると思う。

一方、米国での「原子力ルネサンス」については30年ぶりに20〜30基の原子力発電所新規建設計画が具体化しつつあるといわれるが、実際に建設するとなると、やはり住民の方々のしっかりしたご理解を得ることが前提になると思っている。今、三菱重工が注文を得たテキサス電力の案件も、実際に原子力規制委員会(NRC)の審査が順調に進んでおり国としての動きは揺るぎない状態にあるので、今からは実際に建設する地域の方々はじめ広く一般の方々のご理解を得られるように、技術の安全性等についてきちんと透明性のある説明をしていかなければならない。幸いなことに日本の原子力技術は、国および電力会社に支えられて、米国の“空白の30年”の間もずっとものづくりの技術をキープし続け、また研究開発も継続してきた。このことが、米国内のマーケットでも実際の高い評価につながっていると考える。

司会 ところで昨年末、豪州の政権交代で原子力推進から拒否に一変した。米国も今年は大統領選の年だが、甘利大臣はこうした政権交代による原子力政策の不安定さについてどうお考えか。

甘利 豪州は、ウラン資源を自国では使わないが、他国が使うのは結構ですという、不思議な選択をした。ただ、最初のテーマと少し関わってくるが、原子力が地球の気候変動に果たす役割の認識が少しずつ広がりつつあり、この広がりと同時に、各国政権も自国の温暖化防止対策義務を達成していかなければならない。これからどういう枠組みができるか、ポスト京都議定書についてはこれから2年間かけて決めるわけだが、そういう中でも自国がそれぞれの責務をどう果たしていくかという中で原子力というものを見据えなければならないだろう。現実に原子力発電所を導入することによってCO排出量が大幅に削減されるのは事実であり、今は少なくとも各国は核不拡散等の義務の下で導入する権利を有するわけなので、原子力利用国の温暖化対策の取り組みを見て、この強力なツールが使えるなら使いたいという選択はどんどん広がっていこう。

司会 では勝俣会長、今後、世界的規模で原子力発電所の新規建設ラッシュが予想される中で、日本の電力業界の持つ運転ノウハウや人材教育面での協力・支援への期待がことのほか強いようだが、どのように受け止めておられますか。

勝俣 特に途上国等の場合は、甘利大臣ご指摘のように1つは核不拡散の国際的な枠組みがしっかりしていないといけない。また、二国間の例えば原子力協力協定のような条件整備ができていることがまず基本になる。その上でどうしていくかだが、原子力安全問題については、日本の場合はバブル経済崩壊後も、細々ながら途切れることなく原子力発電所の新規建設を継続してきたことが関係する。そうした実経験の積み重ねやノウハウは極めて大事だし、コスト管理の正確さとか品質の高さにつながり世界各国から非常に評価され、日本の3重電メーカーさんが今、国際的原子力産業再編を主導、ビジネスの国際展開でも実績を上げつつあることかと思う。

こうした背景の下で、私どもがこれから原子力分野で国際協力・貢献していくには、国とメーカーさんと電力会社、ここのところが一致協力しながら展開していくことがたいへん大事だと考える。これは先進国の例だが、米国でABWR(改良沸騰水型軽水炉)の建設・運転一体認可を申請した会社に、東京電力もコンサルティング契約を結び、運転ノウハウ等々で支援している。

また発展途上国の場合には、人材育成とか法整備、規制のあり方等々のノウハウをいかに伝えていくかにあると思う。既にベトナムには2005年から官民協力しており、インドネシア等の国に対しても、ジェトロを窓口として原子力発電導入支援事業を行っている。さらに、マレーシアやフィリピンなどでも原子力発電への関心が非常に高いが、今後10年、15年のスパンで、まず人材をしっかりと育成していかねばならないという方向性はかなり理解されてきているので、そうした面で私どものできるお手伝いをしていきたい。


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