[原子力産業新聞] 2008年1月17日 第2412号 <7面>

アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合 アジアで「原子力の価値」高まる FNCA日本コーデイネーター 町 末男氏

1 注目される「共同コミュニケ」の採択

昨年12月18日、内閣府 原子力委員会主催による第8回FNCA大臣級会合が岸田内閣府大臣(原子力委員会担当)を議長として、アジア10か国の閣僚級の出席者を得て開催された。我が国からは大臣他、近藤原子力委員長はじめ、原子力委員、内閣府、文科省、外務省及び経産省等の関係者が出席した。この会合で「ポスト京都議定書の枠組みにおいて、温室効果ガス(GHG)を排出しない原子力発電の導入を促進すること、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)及び気候変動特別基金の対象に原子力発電を加えること及びポスト京都議定書の枠組みで、原子力発電の導入を促進することの重要性を世界的な認識とすべく働きかけを行う」ことを骨子とした共同コミュニケをFNCAの9か国で同日採択したことは画期的な事である。

急速な発展を続ける東アジア諸国では、急増するエネルギーの需要への供給確保と地球温暖化の抑止が大きな課題となっている。その中で原子力発電の果たす役割についてFNCAは4年前から専門家による議論を重ねてきた。その結果、原子力発電の重要性が共通の認識となり、今回の大臣級共同コミュニケにつながった。今後、国際会議等で、このコミュニケの内容を紹介し、各国ではコミュニケの内容に沿った政策を実行していく。また、我が国は岸田大臣より、今後関係する国際会議でこのコミュニケの内容を紹介し、情報を発信していくとの意図表明がなされた。

2 エネルギー需要の急増と地球温暖化問題――原子力が解決策

急速な社会・経済発展に伴ってエネルギー特に電力消費の急増している状況下で、限られた埋蔵量の化石燃料のみで中・長期にエネルギーの安定供給を確保する事は難しい。従って経済的な競争力があり技術が確立されている原子力発電の新たな導入、現有能力の拡大、あるいは導入の可能性検討を進めていることを、オーストラリアを除く各国の代表が述べている。

温暖化問題については、共同コミュニケにある通り温室効果ガスを発生しない原子力発電の利点を強調する発言が相次いだ。

3 進展する中国の原子力拡大政策

中国は孫勤・国家原子能機構主任が述べているように、2020年には原子力発電容量40GW、それに加えて 建設中のものを18基まで拡大する計画である。07年には100万kW2基が運開し、100万kW4基の建設が8月に開始された。さらに4基のAP1000(110万kW)、2基のEPRの契約が完了するなど計画は着実に進んでいる。電力の約70%が石炭火力であり、排出される亜硫酸ガスのために、国土の3分の1が酸性雨の影響を受けている。省エネに加えてクリーンな原子力と水力の更なる導入が重要な政策となっている。

4 原子力発電導入の実現目指すインドネシア、ベトナム、タイ

インドネシアは、石油(可採年数23年)、天然ガス(62年)を有するが、これらは重要な戦略資源であり、その輸出は国の重要な収入源となっている。これらを出来るだけ長く温存する必要があり、そのため一次エネルギー中の石油の比率を大幅に減らし、石炭を増やし、原子力発電を導入することが不可欠である。政府決定の計画では2017〜18年に100万kW2基を運開するとしている。

ベトナムは2020年に最初の原子力発電プラント(100万kW)を運転開始することを決定している。タン副大臣はこの計画を実現するために、先進国からの協力を得たい事項として、@法規制の整備A人材の育成B国会が原子力発電1号機を承認するための計画書の検討――を挙げている。日本の協力が期待されている。

タイはエネルギーの60%を輸入、電力の77%に国産の天然ガスが使用されているが30年で使い尽くされる。石油は90%が輸入であり、エネルギー供給基盤は脆弱であることから、国のエネルギー政策審議会は2020年に200万kW、21年に200万kWの原子力発電を運転する計画を決定した。

5 原子力発電導入検討を開始したマレーシア、フィリピン

マレーシアのジャマルディン科学技術革新大臣は、電力の天然ガス依存比率が65%と高く、天然ガスの埋蔵量は33年分、石油は19年と少ないことに強い懸念を示しており、原子力発電導入の可能性調査を開始した。原子力発電導入に際しては、人材の養成が最も重要であるとして、マレーシア原子力庁を中心に訓練計画を作成中で日本の協力にも強く期待している。

フィリピンは07年原子力発電セミナーを開催するなど、導入について真剣に検討しており、エネルギー省はすでに人材養成を開始することを決定している。

6 FNCAの課題と日本の役割

FNCAはアジアの持続的発展への貢献を目標として活動し、医療、工業、農業、原子力科学・安全、広報、人材養成分野で目に見える成果を挙げてきたが、一層の進展に向けて次のような課題に取組むことが必要である。@各国共通の優先的テーマを一層明確化し、各国の取組みを強化A成果の利用を拡げるためエンドユーザーとの連携を強化B人的・財政的資源を含め各国のFNCA活動への取組みの強化C人材育成プログラム(原子力発電を含む)の強化。

FNCAは日本政府のリーダーシップで実施されているアジア協力であり、その具体的な成果を示すことのできる良いモデルである。原子力科学・技術・利用で日本は最も優れた技術・人材・設備を有しており、人材養成、技術移転を通して各国の要請に的確に応えることが日本の国益にも沿う。


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