[原子力産業新聞] 2008年2月14日 第2416号 <2面>

【クローズアップ】原子力の草の根理解促進活動 「湧き水から小川」へ

わが国の原子力政策が混迷した2000年頃から全国各地域の主婦層を中心に、自発的に湧き水≠フように立ち上がったエネルギー・原子力への草の根の理解促進活動が着実に深化・拡大し、「小川」のせせらぎが聞こえ始めた。経済産業省資源エネルギー庁もこうした活動を評価、重視し、新支援事業に着手、同活動はさらに相互連携を強め大河≠ヨのうねりとなりそうだ。

NPO法人あすかエネルギーフォーラム=「高レベル廃棄物」勉強会

あすかエネルギーフォーラム(理事長=秋庭悦子氏)は、社会経済生産性本部の協力で2日に東京で「私たちが知りたい高レベル放射性廃棄物」勉強会を開いた(=写真)。エネ庁は7月の洞爺湖サミットに向け、地球温暖化防止、エネルギー安全保障の両課題を同時解決し世界の持続的発展に寄与する有力な手段として原子力発電を重視、国民の理解を深める狙いの一環として、「エネルギー・原子力に関する理解促進活動」支援事業を今年度から開始、その第1号として同勉強会を対象とした。今年度10か所、来年度35か所の支援を予定。

「あすか」は東京を基盤とする女性生活者同士が同じ目線、立場でエネルギー・原子力を語り合う草の根のグループ。01年に設立以来、全国の同じ生活者グループ同士のネットワークの場として「エネルギートークサロン」を22回開催、延べ1,400人が参加。今回は札幌市、函館市、青森県大間町、青森市、柏崎市・刈羽村、石川県、御前崎市、愛知県、松山市から12グループ、約50名が参加した。

高レベル廃棄物問題は原子力平和利用・発電が当面する最大の課題で、最終処分場をどこにするかメドがついていない。「あすか」が06年に実施したアンケート調査の結果、「最も知りたい用語」のトップが高レベル廃棄物だった。同勉強会では、原子力バックエンド工学の専門家、杤山修・東北大学多元物質科学研究所教授を講師に招き、「高レベル放射性廃棄物ってどんなもの?安全な処分方法は?どこまですすんでいるの?」をテーマに、生命の誕生から廃棄物処分の現状まであらゆる角度から克明な講義を受けた。

杤山教授は、地球温暖化を何とか防止しなければいけないが何ができるか。原子力、放射能、廃棄物に対する偏見をなくすこともその一歩だとし、「放射性廃棄物処分は原子力発電とセットのエネルギー生産事業で、先行き予測できない面があるにせよ感情だけに流されるのでなく、では今のままでいいのかとの冷静な比較が肝心」と強調した。

勉強会では杤山教授の講義後、地域ごとに分かれた8テーブルで「ここで理解したことをどのように伝えるか」について1時間かけグループ討議を行い、結果を各グループごとに発表した。「目からウロコ。正しい知識を得るには専門家による分かりやすい講義に勝るものはない。言葉として断片的に聞いていたものが全体的体系としてとらえ理解できた」、「今日理解したことを仲間に発信していくには、日常生活の中の言葉に置き換え伝える必要がある」、「原子力発電所のゴミは国や電力会社、自治体の問題ではなく、自分たちのゴミと自覚し行動すべきだ」、また「マスコミは勉強不足。もっと正しい情報を的確に地域住民へ届けてほしい」といった注文もついた。

勉強会に参加したメンバーは中高年の主婦層が主力だが、驚くほど活気と情熱にあふれ、全員が積極的に意見を交わした。いずれも各地域のオピニオンリーダー的立場にあり、男女共同参画プロジェクト等で鍛えられ、会合の企画運営や人前で発言することに熟達している人が多い。勉強会を支援・参加したエネ庁の担当者は、「皆元気、知識があるうえ「遠慮」がない。草の根活動支援第1号にふさわしく「高レベル」になった。地元に戻って理解促進活動にいっそう拍車をかけてほしい」と感想を述べた。

主婦層による草の根理解活動はこの10年間で飛躍的にレベルアップ、情熱に知識力が加わり、「自ら納得して自分の言葉で伝えよう」、「自ら考え、行動し連携の輪を広げよう」の自信にあふれている。秋庭理事長は「皆で今日の成果を隣の奥さんに私たちの言葉で伝えたい」と締めくくった。こうした大地に根ざした広聴・広報がダイナミックな有機体となり、原子力にポジティブな新しい社会が生まれてこよう。

WEN=フォーラム「暮らしと放射線」

一方、WEN(代表=浅田浄江氏)は1月23日に川口市で第11回フォーラム「暮らしと放射線」を開催した。WENはエネルギーにかかわる団体や企業の広報活動等に携わってきた女性たちが、互いの情報交換や勉強会を通じて研鑽するとともに、一般人とエネルギーついて共に語り、考えながら人間とエネルギーのよりよい共存社会構築を目指している。

特に、原子力平和利用でエネルギー(発電)と並ぶ車の両輪、「放射線利用」の理解促進に精力的に貢献してきた。今回は、唐澤久美子・順天堂大学医学部放射線医学講座准教授、秋元智子・環境カウンセラー、WEN会員で同フォーラムのプロジェクトリーダーである碧海ゆき氏をパネリスト、浅田代表がコーディネーターとなりパネル討論を行った。

同フォーラムは特に女性の関心が高い食品、医療と、一般の人には不気味で恐怖心さえ伴う放射線がテーマだけにいずれも真剣な表情で、活発な質疑応答となった。一方、放射線はすでに産業用でもさまざま分野で利用されており、こうした実情と安全問題の理解が進めば、巨大科学技術である原子力平和利用の有意性、明るい展望が一段と開けよう。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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