[原子力産業新聞] 2008年3月13日 第2420号 <4面>

DJモーリー氏招き討論 東工大 中国の台頭、地域紛争など

東京工業大学原子炉工学研究所はこのほど、日本でFMラジオパーソナリティとして活躍中のモーリー・ロバートソン氏を講師に迎え、国際情勢と核問題をテーマに討論を行った。中国の台頭、チェチェン紛争など、大国と流動化する小国の問題に強い関心を持つ同氏が、これら地域情勢に核が多様に絡んでいることを感じ、先般、澤田哲生・同学助教を訪れたのを契機に開催となったもの。

〈 モーリー氏講演 〉

昨日、コソボ独立宣言があったが、世界では、EU拡大のように、融合が進む一方、「国家の断片化」もみられる。モルドバのウクライナ国境側に、「沿ドニエストル共和国」という最近10年来、独立国家を主張する地域がある。ウィキペディアで、「旧ソ連軍の備蓄した膨大な量の武器を保有しており国際的な武器密輸疑惑で非難」との記述に目が止まる。欧州では、しばしば報道特ダネになっており、「放射性物質を含むミサイル、スーツケース爆弾(小型核兵器)を保有」とか、「カジノ、人身売買が収入源」というのもある。国際機関も調査に入れず、実態はつかめないが、大型機の離着陸できる滑走路を持っているらしく、これらを合わせ考えると、ダーティ・ボム(核分裂性物質を撒き散らす爆弾)取引などが心配される。

変わって、今年の五輪を開催する中国だが、今や「世界の巨人」、「エナジー・ハングリー」状態。当然、将来的に原子力でエネルギーを確保しようとするだろうから、日本からの技術移転の可能性も大いにある。逆に、中国製の品物も多く流通しているが、冷凍ギョウザの農薬混入問題など、中国の構造的問題も根底にあるのではないか。

〈 ディスカッション 〉

参加者 反対運動も激しいようだが、日本の原子力の位置付けは?

澤田 国内電力の約3割を担っており、原子力を利用しないと、3割のくらしを我慢せねば。

モーリー氏 途上国でも今後は、原子力導入はもう避けられないだろう。また、ロシアや中国では、「マクドナルドやコンビニを利用しない」というような生活の節制ができる国情にはない。

澤田 世界のすう勢は原子力に傾いている。日本の技術を普及させるよう貢献していくべきだ。

神田啓治・京都大学名誉教授 現在、原子力発電所を作れる国・メーカーは限られている。東芝、日立、三菱重工、GE、アレバ。これに、ロシアが最近、巨大な原子力産業体を立ち上げ、加わりつつある。日本の原子力発電所は、中越沖地震でも安全性が確保された。他の地震国インドネシア、イタリアからも勉強に来ているようだ。

澤田 モーリーさんも指摘したように、中国には「コピー」の文化があるが、移転された日本の技術が、国家間の戦略として利用されていくことはちょっと気にかかる。

参加者 モーリーさんの講演で、「中国の構造的問題」とは?

モーリー氏 私見だが、まず「大き過ぎる」。13億人もの国民をまとめていくには政府にとって負荷がかかる。世界の資本主義経済に引き込まれ、反動で生じた国内の格差は真っ先に農村を直撃する。やせ衰えた農地に化学肥料がつぎ込まれ、農民は搾取、いわば「国内植民地」状態だ。それと、国が支配的に帝国化してきた歴史があるが、なぜか膨張・崩壊の繰り返しである。簡単には解決できないのでは。

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討論の模様は、モーリー氏開設のポッドキャスト(http://i‐morley.com)でも放送中。


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