[原子力産業新聞] 2008年3月27日 第2422号 <3面>

人材獲得に奔走 米原子力産業界 ノースカロライナ州では

米国では今後10年以内に、原子炉運転、メンテナンス、放射線防護、燃料設計など原子力分野の熟練技術者が大量に退職時期を迎える。この退職時期は、米国の原子力発電事業者が新規原子力発電所の建設に向けて準備を進める重要な時期と重なっている。

そのため米国の原子力産業界では、定年を控えた技術者の補充に奔走している。原子力事業者だけでなく、許認可発行や検査を行う規制当局、複雑な許認可手続きを支えるコンサルティング会社、プラントの維持管理や建設を請け負う会社では求人が急増している。

ノースカロライナ州での調査によると、ウィルミントンのGE日立ニュークリア・エナジー社は過去3年間で技術者500名を新規に採用し、今後5年間でさらに900名の増員が予測されている。シャーロッテのデューク・エナジー社では今後1年間で200名を採用予定。ローリーのプログレス・エナジー社は昨年140名を採用したが、今年も同数を採用する計画だという。

原子力規制委員会(NRC)は、国内の原子炉を審査する検査官ばかりではなく、米国の原子力発電所に設備機器を供給する海外メーカーの品質管理を確保する調査官も求めている。NRCは昨年、441名を採用し、今後3年間に600名以上を採用する予定だ。NRCのD.クライン委員長は、「規制者および事業者にとって、人材育成が今後10〜20年に対応すべき重要な課題の1つ」と指摘する。

他の多くの原子力工学部が姿を消す中、ノースカロライナ州立大学の原子力工学部は低迷時期を定員数の削減で乗り切り、現在では、過去最高の196名の学生が、原子力産業界で生涯保障される職業や高給そして専門職としての出世を目指している。

ノースカロライナ州立大学原子力工学部の学生たちは、学内の研究炉で技術を磨きながら、休暇中にプログレス・エナジー社やデューク・エナジー社の原子力発電所で有給の運転実習をして経験を積んでいる。また運転実習を経験することにより学生は、原子力発電所の安全性を実感することができ、電力会社にとって地域社会に対する優秀な“広報官”になる側面もあるようだ。

どの産業にも浮き沈みがあるが、米国の原子力産業は特に厳しい時期を経験してきた。原子力発電を野心的に拡大した1970年代には、金利が二桁に上昇し、建設費は暴騰。さらに1979年にはペンシルバニア州でTMI事故が発生し、原子力産業のイメージは悪化。発注キャンセルは原子力発電所だけではないが、計画中のものから建設中のものまで100基を超える原子力発電所建設プロジェクトが葬られた。

新規採用は据え置かれ、当時の原子力産業従事者は、より有望な分野に流出していった。

現在米国の原子力産業従事者の平均年齢は50歳前後であり、その多くが希望すれば55歳で定年退職が可能である。米国の原子力発電所を四半世紀にわたって担ってきた技術者の約35%、約1万9,600名が、5年以内にまとまって退職していくと予想されている。

原子力産業界ではこれまで、各社間での技術者の引き抜きが少なかったが、今回の爆発的な求人の増加で、原子力技術者の「動き」が活発になっている。プログレス・エナジー社原子力部門のトップ、J.スカローラCNOは、優秀な人材をNRC、GE社、ウェスチングハウス社に奪われていると指摘する。「求人市場の競争は激化しており、学生が来年5月に卒業するのを待たずに、クリスマス休暇中に仕事をオファーすることは珍しいことではない」(同CNO)ようだ。


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