[原子力産業新聞] 2008年4月10日 第2424号 <2面>

日本原子力産業協会 服部拓也理事長に聞く 第41回原産年次大会、東京で開催 「原子力ルネサンス」は本物か? 時流に乗り遅れた日本こそ地道な議論を

―7月の洞爺湖サミット開催に向け、国内外の原子力をめぐる情勢をどう見るか。

服部 石油価格の高騰による経済性、並びにエネルギー・セキュリティーの確保の観点に加え、温室効果ガス排出削減の観点からも原子力発電が見直され、「原子力ルネサンス」が米、露等の先進国のみならず中国、インドを始めとする途上国を含め世界の潮流になっている。このような状況のなかで、日本だけが”袋小路”に入り込み、いろいろな意味で遅れをとってしまったと言える。では日本が今、こうした世界の「ルネサンス」の潮流に乗り国内の足踏み状況を一気にクリアできるかと言うと、残念ながらそのような状況にない。日本としては、今こそ、むしろしっかり足元を固めながら地道、堅実に進めることが肝心だ。

世界で原子力発電の実用化がスタートしてから約40年が経過、初期段階の開発が順調に進みすぎたか、急いだあまりに“置き忘れた”というか、本来片付けておかなければならないことがおざなりのままきてしまい、そのツケが日本に顕著に現れているように思う。

それは、国民からの「信頼」で、原子力というものが国民にきっちり認識されないまま、いわば腹にストンとおさまらないまま今日まで来てしまったのではないか。原子力技術固有の難しさからも、「ルネサンス」の掛け声に浮かれて、とりわけ途上国対応において、今また「行け行けどんどん」のようなことをしてしまうと、大きな禍根を残すのではないか。

最近はテレビや新聞報道でも、世界の原子力発電所新設計画ラッシュ・商戦激化が取り上げられ、さながら「原子力バブル」の様相が見られ、新規建設の数字だけが一人歩きしているように思う。現実を踏まえ、審査体制、機器の製造能力、設計・建設経験者の確保、運転・保守段階の周辺産業体制、放射性廃棄物対策、コスト計算などの裏づけがどこまでなされているのか疑問だ。やはり、もっと着実に地に足の着いた形で進めていかないと、どこかで大きなつまづきとなろう。

原子力に携わる者としては、洞爺湖サミットで原子力について一歩踏み込んだ宣言採択がなされることを期待したいが、G8サミットメンバー国間での原子力政策の違いや、ポスト京都議定書に関する議論が現在、枠組み論・入り口論で膠着しているような状況では、残念ながらCO排出削減を実現するための具体的手段・技術に踏み込み、その中で原子力が主役になるような成果は期待薄と考えざるを得ない。洞爺湖サミットにおけるポスト京都の議論はCOP13の「バリロードマップ」で路線が敷かれているように、09年末のCOP15までに結論を得る第一歩なので、温暖化防止対策で「原子力発電」という言葉が入り、今後の議論の拠り所とすることを考えるべきだろう。

―そうした中、15、16日には原産協会主催で第41回原産年次大会が東京で開かれ、世界の原子力関係者が一堂に会すが、注目点は。

服部 今回は「人類の持続的発展と原子力の果たす役割」を基調テーマとしている。海外における最新の原子力開発計画や各国関係者の取り組みを参考にしながら、国際的に協調・連携して原子力開発を進めるうえで、わが国および産業界の課題について考える場とすることに主眼を置いている。特に、大会初日の午後のセッションでは、「環境とエネルギー・大規模原子力開発国と台頭しつつある国の戦略とは」と題して、米、仏、露、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、日本の各国代表が自国の原子力政策を紹介する。私はこうした各国の生の情報提供・意見交換を通じて、今言われている「原子力ルネサンス」なるものの実態、それぞれの国がどういうことを考え、それが本当に実現するためにはどういう条件が満たされなければならないかといった、現実に立脚した認識のすり合わせの場にしたいと思っている。

今年の年次大会で、さらに「ルネサンス」ムードを高揚するというより、しっかり足元を固めてほしいというのが私の意見だ。その意味で、今年次大会に多くの方に参加いただき、「原子力ルネサンス」は本物か、その中身がどういうものか、原子力関係者が今の潮流とどのように向き合い、その対応振りが信頼でき、納得できるものかどうかを、ぜひ広く社会の皆さんに見て聴いていただき、認識を共有する機会にしてほしいと願っている。

「原子力ルネサンス」の本質・実態、課題をじっくり認識した上で、その解決に国際的に協力できるところ、自国で頑張らなければいけないところの仕分けも必要となろう。それに関連し、冒頭、日本は「ルネサンス」の潮流に遅れをとっていると言ったが、逆に日本こそがきっちりと地面に足をつけた議論ができる経験、実力、能力を備えていることをもっと世界に広く分かってもらい、原子力利用で「国際貢献国家」の役割を果たしていきたい。

(原子力ジャーナリスト  中 英昌)


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