[原子力産業新聞] 2008年4月17日 第2425号 <2面>

[書評] だれも知らなかった 小さな町の原子力戦争 田嶋裕起・前東洋町長著

ポンカンとサーフィンの名所で知られる高知県東洋町。そこで高レベル放射性廃棄物の処分場誘致問題が町を揺るがした。これは全国公募でその文献調査に最初に手を挙げた「小さな町」の前町長・田嶋裕起(たしま・やすおき)氏自らがつづった“日本の将来にとって極めて大きな課題を投げかけた書物”と言えよう。

すべては徳島県と県境を接する一町長の「なんとかせないかんきに」との思いから、この町は一躍全国的に有名になる。

町長自身、町の将来を憂い、地域振興のために「私が最初に興味を引かれたのは、交付金でした」と正直に語っており、次いで「国策であるエネルギー政策に寄与できる」点を挙げている。このことに信をおけない人には、この本は読むに値しないものだろう。

しかし、高レベル廃棄物処分場の文献調査への応募が表面化すると、町長は次第に孤立し悪戦苦闘することになる。最後は出直し選挙で、誘致反対派の候補者に大差で破れ、町長の椅子を失っただけでなく、誘致自体を覆されてしまう。それが26歳の若さで「貧乏人も食えて、自分の家に住めるような社会ならええな」との思いから共産党公認で町議会議員となり7期、その後、党籍を離れ町長を3期途中(2期目、3期目は無投票)まで務めた男のてん末だった。

いわれなき個人的な汚名さえ着せられ四面楚歌の中で、ひたすら処分場に対するひどいデマや風評に対して、「ひとりで打ち消す闘いを強いられました」と振り返る前町長のいまの思いは、「東洋町問題は、日本のエネルギー政策を先送りにしただけで、何の解決策も示してはくれませんでした」、「東洋町の教訓はいかされるのか?」と言う問いかけだけだ。

自分の意志が遂げられなかったにせよ、今後日本のどこかで、また誰かが、その意志を継いで、まず文献調査の応募を実現してくれることを、もしかすると関係者はもとより誰よりも、この人は強く願っているようにさえ評者には感じられたが、それは思いすぎであろうか。     (き)ワック社刊、定価1,500円+税。


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