[原子力産業新聞] 2008年4月24日 第2426号 <5面>

「原子力ルネッサンスは本物か」 目白押しの建設計画 人材育成が万国共通の課題

今大会では、人類の持続的発展のためには、「地球環境」と「エネルギー」の2大要素を確保せねばならないことを提起した。これを受け、既に原子力発電利用を進めている国、今後、台頭しつつある国とも、原子力が各国の戦略の中で、重要な役割を果たすといった展望が示された。これら共通認識をベースに、近年の世界的な「原子力ルネッサンス」の流れを検証しつつ、原子力産業の持続的発展を図る観点から、関係各国に共通する課題と解決のための方向性を模索した。議長は、田中知・東京大学工学系研究科教授(6面に同教授インタビュー)。

【基調講演】 ピーター・ライオンズ・米国原子力規制委員会(NRC)委員
「国際的な規制協力、安全と安全保障の支え―将来の課題に応える」

現在、NRCでは、22件33基の原子力発電所へのCOL申請に対応しつつあり、既に、07年に提出された申請の審査を始めている。NRCは、複数の標準化されたCOL申請を並行して効率よく進めていくため、設計重視の審査アプローチを用いる考えだ。さらに、新規建設の許認可に対する準備として、新たな建設検査プログラム(CIP)を開発中で、これは、サイト準備作業の初期から建設、運転中の原子炉監視システム(ROP)への移行を含め、新規発電所建設のあらゆる側面をカバーするものとなる。また、NRCは、各国の知見や運転経験を活用するため、多国間審査プログラムについても国際的協力を行っている。

しかしながら、許認可申請への対応が具体化するにつれ、NRCが直面する課題に人材確保がある。米国産業界では、5年間で35%もの技術者がリタイアするとみられており、新たな労働力の確保は喫緊の課題だ。NRCでは今後3年間、年当たり200人の人員増強を目指している。

【パネル討論】
アキルベク・カマルディノフ・駐日カザフスタン特命全権大使

豪州に次ぎウラン資源埋蔵量第2位のカザフスタンでは、世界のウラン市場拡大に伴い、ロシア、フランス、カナダ、日本とのジョイント・ベンチャー協力が進められている。それにより、10年までに年間1万5,000トン以上、18年までには同2万8,000トンの生産能力を確保し、30年には世界の原子炉燃料の30%をカザフスタンから供給することを目指している。

また、国内では、ロシアとの協力で、カスピ海沿岸のアクタウに、中型炉「VBER―300」を建設する計画もある。

ロバート・バンネーメン米国濃縮会社(USEC)上級副社長

ウラン濃縮で、遠心分離機の開発・導入競争が世界的に進む中、USECは、「原子力ルネッサンス」に伴う燃料需要に応えながら、米国型遠心分離プラント(ACP)によって、国際市場におけるキーパートナーの地位を占めようとしている。今後数十年間で、濃縮ウラン市場の継続的な伸びが予測される。ACPは、既存プラントと比べ、生産コスト削減、CO排出削減により、今後、重要な役割を担うだろう。モジュール型設計により、濃縮技術能力の増強期間は、新規原子炉の建設に必要なリードタイムより大幅に短く、ACPのような先進的遠心分離技術で、燃料需要増への対応が一層強化されることとなる。

金鍾信・韓国水力原子力社長

韓国では現在、計20基の原子力発電所が国内電力消費量の約40%をまかなっており、年間設備利用率も概ね90%台を維持し、安定した基幹電源としての地位を確立している。韓国は、天然資源に恵まれず、安定したエネルギー供給の確保、経済成長にとって、原子力発電は重要な役割を果たしてきた。次世代炉「APR1400」では、新古里3、4号機が昨秋、着工したほか、新たな開発計画も進行中だ。

世界では、地球温暖化対策、エネルギー安定供給といった課題への解決策として、原子力に可能性を見出そうとしている。原子力発電は今後十年間で、「原子力ルネッサンス」と呼べるに相応しい大幅な発展を見せるはずだ。

イーゴリ・レシュコフ・ロシア原子力庁長官補佐官

既に数多の国際機関が予測してきたように、経済成長とともにエネルギー消費量は増加しつつあり、これに対応する際、環境への影響を考慮すると、原子力は不可欠である。

世界では、TMI事故、チェルノブイリ事故の経験から、原子力の安全規制の枠組みが強化されてきた。しかしながら、原子力産業発展の阻害要因になりかねないだろうか。国内外ともに対話を重ね、整合性ある安全規制の構築、加えて、安全確保に対する努力が経済面でも報われるシステム作りも必要ではないか。これらが確立して、本当の意味で原子力産業界の持続的発展が図られるのではないか。

リュック・ウルセル・アレバNP社長

COを排出しないエネルギー確保の手段として、原子力を開拓していくという市場の動きは本物であり、現在、世界中で新規原子力発電所建設のみならず、既存発電所の寿命延長が動き出している。しかしながら、一企業、一国が自力で産業界を復興させることはできない。アレバが世界中のパートナーや顧客との間で、長期的な連携を維持しようとしているのはそのためで、戦略は単に発電所の建設のみならず、原子力産業の持続可能な発展を支援することも目指している。

世界では今後、30年までに、300基以上の原子力発電所が建設されるが、これらは既に運転中の400基以上の発電所と同様に、燃料供給を始め、多くのサポートが必要となる。アレバは、発電所の生涯にわたって、原子炉と燃料サイクルの役務を提供することに力を注ぐ。

鉱山開発、機器供給網強化なども重要だが、人的資源の開発も喫緊の課題であり、アレバでは現在、技術者、専門家の確保に力を入れつつある。

早瀬佑一・日本原子力研究開発機構副理事長

世界のエネルギー安定供給と地球温暖化対策を同時に解決するため、原子力の持続的発展が不可欠なことは、もはや世界の共通認識と考えられ、このメガトレンドに乗る「原子力ルネッサンス」は必然の動向といえる。

インド、中国など、今後、目を見張るエネルギー需要予測の中、まず当面は、現在の軽水炉を中心とする原子力発電を着実に推進し、これから導入する国にも定着させていくことが必要となる。その際、原子力発電推進国に共通の責務として、“Safety”(安全)、“Safeguards”(保障措置)、“Security”(核物質防護)の3Sの確保が重要であり、また、これらを支える人材の育成も不可欠だ。

田中議長 各国とも、原子力産業の持続的発展に向け、いろいろな側面から貢献しており、国際協力も進んでいるようだ。

一方で、世界スケールで考えねばならない問題も指摘された。特に、人材育成は各国共通の課題ともいえよう。世界の「原子力ルネッサンス」は本物でなければならない。


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