[原子力産業新聞] 2008年4月24日 第2426号 <6面>

東京大学大学院工学系研究科教授 田中 知氏に聞く 「国際貢献=国益」 洞爺湖サミットへ「官邸主導」に期待

先週開催された第41回原産年次大会で、「原子力ルネサンスは本物か」のセッションの議長を務めた感想は。

田中 世界の潮流になってきた「原子力ルネサンス」は“本物”だと実感した。何をもって本物かというと、まず世界各国・機関がそれぞれ独自の立場で原子力ルネサンスの実現、原子力エネルギーの大幅な利用拡大に貢献しているし、しようとしていることが確信できた。また、国際協力、アライアンス、パートナーシップが、他から要請されたとか強制ではなく“自律的”に進みつつある。原子力メーカー間でも日米、日仏はじめさまざまな形で国際的アライアンスが勢いを増している。

一方、原子力発電は地球温暖化防止、エネルギー安全保障の側面だけではなく本来、ビジネスとして企業利益と直接リンクしているだけに難しい議論となるが、私は「国際協力=国益」という図式になるのではないかと思う。国際協力と国益は相矛盾する概念でもあるが、原子力ルネサンスの本質・地球環境問題は企業、国が国民のため、国益のために努力しているという考えがないと、温暖化防止のような大きな問題は解決できないし、世界の中でも貢献できないことを、国民にも説明できないのではないか。人類共通の問題解決に日本がどれだけ貢献できるか、それが大きな目で見れば日本の国益になる。

さらに、原子力ルネサンスの世界的潮流の面では、米国、中国での原子力発電所新設計画が目白押しなだけでなく、年明けに英国の原子力復帰が、仏を別にして原子力発電拒否が主流だった欧州に”英国効果”をもたらし、新たな風向き変化の兆しが見える。加えて、産油国でも恐らく将来のエネルギーをどうするかを考えFBRや核融合の研究をしているかもしれない。実際、原子力発電導入を表明した国もあるし、現在のオイルマネーをつぎ込めば、将来のエネルギー・原子力技術を彼らが牛耳ることができると考えているのではないかとさえ感じた。

もう一点、そういう中で、日本は原子力平和利用50年の経験、新規プラントの継続的建設実績を踏まえて、世界の原子力発展のために貢献できるのではないかと思う。

今後、さらに「原子力ルネサンス」を本物にしていくための課題は。

田中 第1は、将来の原子力エネルギー大幅拡大に向けて核燃料供給保証や使用済み燃料処理、放射性廃棄物処理・処分問題等が大きな問題になると予想されるので、対応策を世界スケールで真剣に考えていかなければならない。その際、仏などは途上国に「そこまで心配してあげている」などと説明しながら、フロントからバックエンドまでセットにして原子炉ビジネスを展開している。日本もこうした国際動向にどう対処・対抗していくかを考えていかないと、本当の意味での国際貢献もできないのではないか。

第2は、原子力平和利用の前提となる「3S」(安全、核不拡散、セキュリティー)が大事。原子力関係者の大半は、日本は3Sのモデル国と思っているようだが、将来、FBRの実用化やアジア地区での燃料供給保証をどうするか等、もう一歩踏み込んだ議論をしっかりしておかないと、気がついたら日本が一番遅れをとっている懸念もある。

このほか、第3に原子力安全における経済性の反映、第4に原子力が技術中立的で世界規模で拡大し温暖化防止に貢献するためにはCDMの対象となるよう積極的な働きかけ、第5に人材の育成・プール、規制の透明化・相互承認等が必要だ。

世界の原子力ルネサンスの流れが本物となる中、7月の洞爺湖サミットを迎える。課題は。

田中 温暖化・エネルギー問題は、国内の政局云々というより今後50〜100年の人類、世界のことを思い、今存在するわれわれは何ができるかという観点に立つ課題であり、もっと大きな中長期的視点に立ち国際貢献を考えるようなところへ論理が変わっていかないといけないが、国民はやはり地震とか今抱えている問題に敏感になる。

だが重要なことは、原子力が本当に持続可能なエネルギーなのか、またそのための条件を日本人(人類)の力でコントロールできるのか否かを、われわれ自身の問題としてしっかり議論し認識していくことが肝心だ。

08年に入り、「ポスト京都」の議論が洞爺湖サミットから本格的に始まる。原子力の位置づけが高まり、世界ルネサンスが進展する中、日本がこの分野で優秀な実力を備えているとするなら、国際的にどうイニシアチブを取り、他国と協力して国際貢献していくかが問われる。それが国益にもつながるわけで、最初の一歩が重要だ。その要は政治の決断にあり”官邸主導”に期待したい。

(原子力ジャーナリスト 中英昌)


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