[原子力産業新聞] 2008年5月29日 第2430号 <3面>

加AECL 日程と経費の超過で RI生産炉 開発計画を中止

カナダ原子力公社(AECL)は16日、慎重な評価と分析の結果、チョークリバー原子力研究所内に所有する医療用放射性アイソトープ製造専用施設のメープル原子炉2基(各10MWth)の開発を直ちに中止することになったと発表した。

メープル原子炉は、世界でも大手のアイソトープ供給業者であるMDSノルディオン社が医療用のモリブデン99、ヨウ素131、同125、キセノン133などを製造するためにAECLの施設内に建設したプール型軽水炉。1号機は2000年に臨界に達したものの、設計上の技術的な問題が複数浮上したためフル出力による商用生産に至らず、問題解決のための試験運転を低出力で実施するにとどまっていた。

バックアップ用に同一設計で作られた2号機も停止中となっており、運転認可の再取得問題を含めた建設スケジュールの遅延と建設費用の超過のため、2006年には両機の建設費用を含む全所有権はAECLに移っていた。

今回のプロジェクト中止の決定に際して、数多くの理由の中でもAECLは特に、技術的な問題解決のために要する経費やスケジュールの大幅な遅延とリスクを指摘した。H.マクディアミド理事長兼CEOも、「諸事情を勘案した上での適切なビジネス判断とはいえ、これまで我々がメープル炉開発のために傾注してきた甚大な努力を考慮すると正に苦渋の決断だった」と内情を吐露。両炉の完成と運転開始はもはや実現不可能と同公社の上層部が判断したことを明らかにした。

メープル原子炉の開発中止によって影響が懸念される医療用アイソトープの供給に関しては、MDSノルディオン社との間で締結した協定により、チョークリバーにあるAECLの国立研究ユニバーサル(NRU)炉およびその関連施設を利用してアイソトープを生産することになると言明した。ただし、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が発給したNRUの運転認可は2011年10月末で期限切れとなるため、それ以降の生産についてAECLはCNSCおよびMDSノルディオン社と緊密に協議していく考えであると表明している。

なお、AECLの決定について、G.ルン天然資源相とT.クレメント健康相は次のような政府見解を発表した。

「政府はAECLのプロジェクト終結決定を受け入れる考え。1996年に始まったこのプロジェクトは12年を経てなお、原子炉が正式に稼動することも、医療用アイソトープを生産することもなかった。アイソトープの今後の供給については、既存のNRU施設が生産を継続するため大きな影響はない。政府としては、わが国の州および準州の政府、主要な医療専門家に対しても生産の途絶はないと説明していくつもりだ」。


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