[原子力産業新聞] 2008年6月12日 第2432号 <2面>

【クローズアップ】「原子力と向き合う」(4) 日本経団連資源・エネルギー対策委員長 日本ガイシ会長 柴田昌治氏に聞く 「夢と現実対応」同時並行がカギ 「迫力」ある原子力推進宣言を

―「ポスト京都」の枠組み設定のキーワード「セクター別アプローチ」は、日本経団連方式(CO排出削減自主行動計画)の「国際版」ともいわれる。

柴田 日本経団連では製造業が主体的な役割を果たし、鉄鋼、電力といった各産業別にCOの発生量やエネルギー消費原単位の改善目標を自主的に定め排出削減に取り組んでいる。政府が数値目標を定めて全体規制するより最終的には温暖化対策・CO排出削減の一番の近道になるというのが、この自主行動計画の基本的考え方だ。セクター別アプローチは、部門別に利用できる最良の技術や解決方法を共有し、CO排出削減のベンチマークを設定するという、技術的裏付けのある現実的枠組みとして日本が世界に提唱しているものだ。国際的にも徐々に認知されつつあるが、まだ途上国等の一部に異論もある。各国の意見に十分耳を傾けながら、何といっても主要排出国である米国、中国、インド、ロシアの参加合意が得られるよう提案し、説得し、リードすることが、洞爺湖サミット議長国として一番大事な役割である。

―もう一点、日本の産業界は温室効果ガスの「国内排出量取引制度」導入には反対なのか。

柴田 国別の総排出量削減のためにはそれ以外にも自主行動計画などの方策がある。いずれにしても、まずは総量目標など国際的な枠組みについて合意されることが先決だ。いわゆるキャップを前提とした取引制度は「排出義務の割り当て」に等しく、自由経済の活力を削ぐという側面があるのは事実。特定の方策に限定して議論するのではなく、諸外国の議論や制度運用状況を踏まえて、慎重かつ徹底的に議論することが重要だ。一方で世界的な流れを読むと、国際的には欧米中心に大勢が制度設置の方向に向かっている。経済と環境の両立を大前提に大きな目標の達成に向けた議論が必要で、地球温暖化問題に関する懇談会の奥田碩座長・前日本経団連会長も「もう少し広い視点で考えよう」と言っている。

―さらに長期のCO排出削減目標のかさ上げが基調となる中、その実現には原子力発電の拡大推進がカギを握るのではないか。日本経団連の原子力に対するスタンスを聞きたい。

柴田 日本経団連は原子力が大変重要かつ必要だと考えており、06年には安全性の確保を前提として原子力を積極的に推進するよう求めた政策提言を行った。省エネや太陽光などの自然・再生エネルギーも重要だが、それだけではよほど極端な政策をとらない限り供給量的に対応が難しい。その点、原子力はすでに発電電力量の3割を占める基幹電源としての役割を果たしており、大地震にも耐え得ることを証明した。課題もまだ残されてはいるが、それでも現実の解決策として当面の答えは「原子力」しかない。

したがって、温暖化対策のみならず原油価格の高騰で第3次石油危機さえ憂慮されているだけになおさら、日本は原子力を最重要視し国策として推進し、経済界もそれに積極的に協力していくことが肝心だ。衆参ねじれ国会で政治的に難しい局面を迎えているとか、G8主要国間でも意見の相違がある中で、福田首相が4月の原産年次大会で原子力の重要性を直言されたことは重く受け止めるべきだし、さらに原子力が温暖化防止対策の切り札であるともっと全面的に打ち出すべきだと思う。福田首相は調和とバランス感覚に優れ言うべきことは言われるが、洞爺湖サミットではさらに“迫力”をもって原子力の重要性と推進を明言いただき、確固たるリーダーシップを発揮してもらいたい。

―世界の「原子力ルネサンス」に日本はどう貢献できるのか。

柴田 「原子力ルネサンス」は推進していく必要があるし世界的な流れが加速する中、その実現には日本の協力が不可欠と言われ、わが国もそのつもりでいる。しかし、新規の原子力プラントの注文がいっぺんに数十基も舞い込んできたとしても対応できるものではない。着実な技術の改良や人材の育成など、じっくりと取り組むべきことは多い。

同時に、その関連でもう1つ大事な視点は人材育成などを含めた原子力産業の再編成を世界的な規模で考えていかなければならないことだ。日本が国際機関に協力して、各国に原子力の技術者の育成機関や、設備・部品等の委託加工センターを設置するなどして、原子力を将来の世界共通の基幹電源に発展させていくような構想が浮上してくるのではないか。

いずれにしても大事なことは、原子力問題でも温暖化対策でも、トータルとして世界の流れの中に立って「夢」を語る部分がないと、「現実に実行できることだけやろう」では問題は解決できない。自ら果たすべき義務、やれることはきちっと実行し積み上げながら、将来に向けた夢の実現を同時並行で求めていかなければならないというのが私の思いである。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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