[原子力産業新聞] 2008年7月24日 第2438号 <2面>

「役割拡大で経営資源も増大を」 「IAEAの将来」 国際賢人委員会が提言 20年までに予算倍増を エルバラダイ事務局長 「9月理事会の議題に」

国際原子力機関(IAEA)がIAEAの将来像を探るために、事務局長の諮問機関として昨年秋に設置した「国際賢人委員会」(委員長=E.セディジョ元メキシコ大統領)の報告書「平和と繁栄のための国際原子力秩序の強化――2020年までおよびそれ以降におけるIAEAの役割」がまとまり、6月のIAEA理事会に提出された。2020年までにIAEA予算を倍増する必要性などを盛り込んだ同報告内容について、エルバラダイ事務局長は「IAEAの将来に関する決定を緊急に行う必要がある」として、9月理事会の検討議題に含める意向を示している。

同委員会は、IAEAが今後直面する多くの課題と機会を取り上げ、具体的な提言を取りまとめた。重要な業務分野の優先順位付け、財政的なオプションとアプローチなどについて検討した。委員には、ローベルジョン仏アレバ会長、ベリホフ・露クルチャトフ研究所総裁、シュッセル・オーストリア前首相、ナン米元上院議員、チダンバラム印元原子力委員長ら、日本からは吉川弘之・産業技術総合研究所理事長(元東京大学総長)が参画した。

報告書では、世界的な原子力利用の拡大に伴い、IAEAの業務・役割が増大すると指摘。原子力開発・利用、軍縮、核不拡散、安全確保、セキュリティー分野での増大する業務、新しいパートナーシップにおいて適切な役割を果たしていくためには、追加の権限、予算増加を含む経営資源、人材、および技術が必要だとしている。

主な提言としては、(1)今後数年間、毎年約5,000万ユーロ(約84億3,000万円)の通常予算の継続的増加(2020年までには倍増)(2)保障措置分析研究所、事故緊急時対応センターの拡充・強化(一時負担金8,000万ユーロ=135億円)(3)原子力利用の拡大が安全に行われ核拡散に寄与しないことを確実にするために、国際協力の強化(4)保障措置の強化、核燃料サイクル管理への新しいアプローチ、効果的な輸出入管理の推進(5)供給保証メカニズム、国際サイクルセンター等の国際枠組み・制度の奨励・推進・寄与(6)経済的で安全で、核拡散抵抗性のある中小型原子炉の設計研究の調整(7)放射性廃棄物管理について安全で持続可能なアプローチの確立(8)国際原子力安全基準の策定(9)新しい原子炉モデルの認証プロセスの調和・推進――などを挙げている。

報告書では、「数百サイトにわたる数百トンの核物質を追跡・把握しなければならないIAEAが、ウィーン警察とほぼ同額の予算しかないということは遺憾だ」と指摘している。

IAEAの08年度通常予算は4億7,000万ドル(約497億円)で、職員数は約2,300人。日本は今年度IAEA通常予算分担金(国連分担率に準じ、保障措置の負担額を調整)および原子力安全などの任意拠出金の合計で、約85億円を支出している。


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