[原子力産業新聞] 2008年7月24日 第2438号 <3面>

米・政府監査院 発電所火災で報告 リスク情報活用型 防火対策を勧告

米国議会の調査機関である政府監査院(GAO)は6月30日、米原子力規制委員会(NRC)に対し「国内の商業炉では70年代の安全規制に則って防火対策が取られている」と指摘するとともに、新方式の対策を勧告する報告書を公表した。

1975年にアラバマ州のブラウンズ・フェリー原子力発電所で原子炉の安全停止を脅かしかねない火災が発生した後、NRCは国内の商業炉に対して慣行に基づいた防火安全規則を布いたが、原子炉ごとに設計や稼動年数が異なることから、遵守が難しかったり、適用を逃れようとする例も見受けられた。このため、NRCは2004年以降、原子炉ごとの火災リスクを分析するリスク情報活用型の防火対策へ移行するよう、国内104基の原子炉に奨励する活動を開始している。

GAOも国内10か所のサイトを訪問したほか、NRCの報告書および原子力発電所における火災関連の資料を審査。NRCや産業界の役員とも面談し、(1)95年以降、原子力発電所で発生した火災の件数および原因(2)NRCの防火安全規則の遵守状況(3)リスク情報活用型規制への移行状況−−について調査した。

GAOは今回、このような調査の結果を「NRCによるさらなる監視強化は可能」と題する報告書にまとめたもの。その中でGAOはまず、「原子力産業界による既存の防火規則遵守に影響を及ぼすような長年の課題をNRCは解決していない」と結論づけており、発電所における火災対策が防火バリアや自動的な火災の探知および鎮圧といった「パッシブ」な手段よりも、発電所員の手によるバルブやポンプの開閉などマニュアル操作に頼っていると指摘。NRCが規則の遵守状況に関する包括的なデータベースを保有していない点にも注意を喚起している。

GAOはまた、所員達が損害を受けた機器の修理や取替えよりも、主として火災監視活動などの暫定的な対処方法を長期間にわたって取っていると指摘。特に原子炉の安全な停止のために必要な、いくつかの電気ケーブル用防火カバー材については、その効果に疑問を呈している。また、安全系機器の不具合に直結して原子炉の停止を困難にする漏電や潤滑油等の発火による火災の影響緩和についても課題が残されていると強調した。

GAOによると、NRCは主に原子炉の複雑な認可システムを簡略化するために、リスク情報活用型の防火対策に移行するよう発電所に呼びかけているが、今年の4月時点でこの手法の採用を表明している原子炉は46基だった。しかし、学会や産業界と同様、NRCでも火災のリスク評価やモデリング技術、発電所ごとの専門知識に明るい人材が不足しているほか、コストもかかることから移行には時間がかかるとの懸念を表明している。


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