[原子力産業新聞] 2008年7月31日 第2439号 <3面>

加・MDSノルディオン社 RI生産炉問題で AECLに賠償請求

世界最大の医療用アイソトープ(RI)生産企業であるMDSノルディオン社は9日、カナダ原子力公社(AECL)およびカナダ連邦政府がRI生産用原子炉となるはずだったメープル炉の開発中止を5月に一方的に決めたとして、16億ドルの損害賠償を求める裁判を起こした。

MDS社の発表によると、同社の目的はAECLが2006年に締結した「医療用RIの中長期的な供給契約」に基づく義務を果たすこと。これについて同社は別途、AECLとの仲裁調停手続きを取ったことをAECL側に伝えているが、それが適わない場合には金銭的な補償の要求も辞さない考えで、AECLに対しては契約不履行と怠慢行為で、カナダ連邦政府については契約不履行を誘引し経済活動を妨害したとして総額16億ドルの支払いを求める裁判を同時に起こしたもの。

MDS社はこれらの訴訟を通じて、AECLが10年以上前からの契約――(1)老朽化した国立研究ユニバーサル(NRU)炉のリプレースとしてメープル原子炉を稼動させる(2)医療用RIを必要とする世界中の患者達に今後40年間にわたってRIをする、を実行するよう望んでいる。

MDS社は1996年にAECLと協定を結び、熱出力各1万kWのRI生産原子炉2基と関連処理施設を設計・開発・建設するというメープル・プロジェクトを開始。メープル炉は世界の医療用RI需要の50%を賄うNRU炉のリプレースとなる予定で、2000年に運転を開始するまでの期間はNRU炉が暫定的にRIを供給することで両者は合意していた。

しかし、2005年になってもプロジェクトは完了せず、1億4,500万ドルと想定していたMDS社の投資額は倍の3億5,000万ドルに膨れ上がった。このため、06年に両者が結んだ協定では、メープル炉の建設費用ごと同炉の所有権をAECLが取得。同炉は08年10月に運転開始することとし、MDS社には同炉が生産するRIが40年間に渡って供給されることになった。

それにも拘らず、AECLとカナダ連邦政府は5月16日、MDS社への事前連絡なしでメープル・プロジェクトの中止を発表。NRU炉の運転認可が切れたあとは、認可の延長でRI需要に対応するとの見解を示している。


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