[原子力産業新聞] 2008年8月21日 第2441号 <2面>

【クローズアップ】 洞爺湖サミット「首脳宣言」の読み方 元駐米大使 柳井俊二氏に聞く 「日本の提案」で国際的イニシアチブ合意 原子力を初めて積極評価

―洞爺湖サミットにおける、「原子力」の位置づけについて。

柳井 日本政府部内では、大分前から「気候変動問題の根本的解決策は原子力」という認識が深まっている。7月初旬の洞爺湖サミットで採択されたG8首脳宣言を見ると、特に第28項で原子力の重要性と積極的推進を明確に打ち出したことは画期的である。

その要旨は、@原子力を地球温暖化防止とエネルギー安全保障の不可欠の手段とみなし、原子力計画への関心を示す国が増大していることを目の当たりにしているA保障措置(核不拡散)、原子力安全、核セキュリティーの「3S」が原子力エネルギーの平和的利用の根本原則Bこのような背景の下、日本の提案により、「3S」に立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際的イニシアチブが開始されるCわれわれは、このプロセスにおいて国際原子力機関(IAEA)が役割を果たすことを確認する──の4点。

とりわけ、文章中に「日本の提案により」という一言が盛り込まれているのが注目される。通常はどこかの国が提案しても、わざわざサミット宣言には書かない。これはまさに議長国である日本の主張が反映されたもので、そこには福田首相以下、原子力に対する日本の意識・認識がにじみ出ている。中でも「3S」は、まさしく日本のブランドだ。同時に、国際的にエネルギー供給と気候変動の両面から原子力の価値が見直され「原子力ルネサンス」が世界で加速しているという大きな流れがある。そこに日本政府が問題解決の切り札として原子力の重要性・推進を主張した結果が、今回の「原子力イニシアチブ」に結び付いたものと思う。

他方、洞爺湖サミットの報道を見てひとつ気懸りなことがある。国内のマスコミでは「議長国たる日本・福田首相の指導力欠如で何も決まらなかった」、「失敗だった」といった報道が大半だが、それは間違いで、サミットとは何かということについての理解不足だ。サミットの本質は、私は主要国の首脳を頂点とする「プロセス」だと思う。洞爺湖サミットが終わっても年内は日本がG8議長国である。9月の国連総会はじめフォローアップのための閣僚や次官級の会合が今後無数にある。その議論は、来年1月から次期開催国であるイタリアに引き継がれ、さらに詰めが進む。

首脳会合は、こうしたサミットとサミットの間をつなぐ一連のプロセスを踏んでいるわけで、毎年1回、G8首脳が集まり対話すれば、その場で世界の大問題が解決するというような単純なものではない。しかし、そこでやはり非常に大事なことは、首脳同士が一堂に会し、大きな問題について「これでいこう」と大局的な方針で合意し、それに向かって決意表明し、これを受けた「一連のプロセス」が進むというところに首脳会合本来の意義がある。

その観点からサミット首脳宣言の28項を見返すと、例えば、IAEAの役割に関する部分で「このプロセスにおいて」という表現になっているのは、そういう意味合いである。

―そのIAEAの力不足を指摘する声も聞かれるようだが。

柳井 IAEAの力不足の指摘があるのは事実だが、国際機関であるIAEAを強化するためには、その構成国である日本はじめ力のあるメンバー国がイニシアチブをとり、一致協力して原子力平和利用の新たな枠組み構築に取り組むことが肝心だ。われわれが主催する核不拡散問題検討会(委員長=柳井俊二氏)でも、4月に政府に提出した提言書の冒頭でIAEAの機能強化を掲げ、@検証機能の強化A原子力供給国グループとの連携B核拡散抵抗性技術の開発──の3課題を挙げた。

―ところでG8で唯一脱原子力§H線を維持するドイツをどう見るか。

柳井 確かにドイツでは原子力反対の立場の人がかつては多かった。洞爺湖サミットの宣言に原子力の利用促進に関する前述の文言を入れることについても、ドイツだけは当初かなり抵抗したそうだが、今では現実的ではない。風力と太陽光利用の拡充で賄うといいながら、不足する電力は原子力が80%を占めるフランスから輸入している。きれい事だけでは済まない現実を現政権はじめ多くが認識を新たにしつつある。ドイツ国内の空気は変わってきており、メルケル首相も個人的には原子力反対ではない。

ただ、原子力推進には「3S」が絶対的前提条件となる。特に日本国内では原子炉本体でなく周辺の些細なトラブルでも、マスコミは原子力そのものを悪とする大合唱となる。せっかく今日本の主張が通り、G8サミットで原子力推進が明記されグローバル化が加速する時に、肝心の日本が自らの足下を崩してはならない。この点、原子力産業界にはよほど気を引き締めて取り組んでもらいたい。日本が直面する課題は「3S」を基本に、現在60%程度といわれる原子力発電所の低い稼働率を引き上げることだ。(原子力ジャーナリスト 中 英昌


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