[原子力産業新聞] 2008年10月23日 第2450号 <5面>

原子力グローバル展開の課題と展望(上) サプライチェーン世界戦略 電力業界の国際展開戦略 電気事業連合会・原子力開発対策委員長、関西電力副社長 森本浩志氏に聞く 「三者一体」でワンセット提示めざす 「ビジネス」の視点も重要に

電気事業は長らく公益性の高い国内市場を中心とするドメスチック産業の代表格だったが、原子力発電が地球温暖化対策の切り札として世界で「原子力ルネサンス」が加速する中、電力会社もグローバル・パートナーとしての役割が重要性を増している。原子力の国際展開にあたり、「発電所運転のサプライチェーン」というコンセプトはなく、「電力によるユーザーサイドからの国際協力」ととらえているが、もろもろ含めて森本浩志・電事連原子力開発対策委員長(関西電力副社長)の見解を聞いた。

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―7月の洞爺湖G8サミットにおける「原子力の役割・位置づけ」について、電力業界はどう評価しているか。

森本 6月に青森で開催されたG8エネルギー大臣会合を含め事前協議段階では必ずしも各国が一枚岩ではなかった中、世界の「原子力ルネサンス」の大勢を踏まえた日本のリーダーシップにより、G8首脳宣言文書に原子力が温暖化対策とエネルギー・セキュリティーを両立する不可欠の手段であり、3S(核不拡散、原子力安全、核セキュリティー)に立脚した国際イニシアチブを具体的に展開していくことが盛り込まれたことは画期的で大きな意義がある。日本はこれまでさまざまな困難を乗り越え原子力開発を粛々と継続・推進してきたが、それが今回こうした形で世界から認められるようになったことは、われわれが努力してきたことが間違っていなかった証にもなり、さらに今後の進むべき道が明快になったと思うし大変心強い。

したがって日本は、年内は引き続きG8サミット議長国の立場にあることを踏まえ、洞爺湖サミットで採択された原子力推進の国際イニシアチブがG8内だけの認識ではなく、世界180か国以上が参加する国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP)の議論の場に広げていくよう努めることが肝心だ。世界で「原子力ルネサンス」が加速し、新たに原子力発電を導入する途上国も増えていく中、各国ごとの具体的な導入基盤整備でリーダーシップをとり推進していくことが日本のこれからの役割であり、世界の期待に応える要点だと思う。

―電気事業もこれからは「グローバル・パートナー」としての役割が、国際貢献、日本の国家戦略両面から重要性を増すと思うが、どうか。

森本 電力会社はこれまで水力、火力発電の海外事業をかなり手がけてきたが、原子力は、メーカーが発電所を建設すれば終わりというわけには行かず、運転、保守、保全から燃料供給、つまり、フロントエンド、バックエンドまで一連のものを「セットメニュー」として提示しないと、原子力を新規導入したいと考えている国の期待に添うことはできないと思う。ここがこれからの要点で、今まさに総合資源エネルギー調査会・原子力部会の下に国際戦略検討小委員会が設置され、10月から議論が開始される主たる狙いもそこにあろう。

こうした「セットメニュー」を提示するためには、国は原子力平和利用の大きな枠組みや法整備や資金協力を含む二国間協定などの条件整備、メーカーはビジネスとしての戦略的な取組み、電力はフロントエンドから運転・保守、バックエンドまでのグッドプラクティスや失敗の豊富な経験の提供という、国、メーカー、電力の三者がしっかり役割分担し、かつ一体となって取り組むことが肝心だ。

特に日本はこれまで、電力とメーカーの緊密な連携のもとに原子力開発を途切れることなく継続してきた。その流れの上に培ってきたメーカーの技術は世界トップレベルで、しかもPWRとBWRの両炉型を備えている。

また、耐震性能等含め日本国内の要求品質は非常に高く、世界のどのような要求にも対応可能で、今求められる最高のものを提供できる状況にある。それだけに、日本の原子力が認められる絶好のチャンス≠セととらえる必要があると思う。

―途上国協力としては今、ベトナムが今後を占うモデルケースとしてクローズアップされている。電力の対応は。

森本 ベトナムはまさに初の原子力発電所建設の実行可能性調査=フィジビリティー・スタディー(FS)実施直前段階にある。日本はこれまで長年にわたり専門家育成に協力、プレFSも実施してきただけに同国の日本への期待も大きいが、今はそれに加えて、特に地元への理解活動が一番大事な時期を迎えている。

9月には日本メーカー3社と電事連が協力して、サイト予定地で展示会、講演会を開催、私も参加した。ベトナム国民の理解度を高めると同時にわれわれも現地の状況を把握する双方向の狙いがあるが、非常に反響が大きく、展示会(3日間)には約3000人、講演会(2日間)には650人の参加があった。電力業界としては、間近といわれるFSはぜひ日本が受注できるよう、日本原子力発電を窓口として全電力会社あげて支援している。

―国際展開については従来、国内で公益色が強い電力はビジネスが主体のメーカーとは視点が違うように思うが、今後の展開・展望は。

森本 そこはこれから国際戦略検討小委員会における論点の1つにもなると思うが、われわれがフランスの状況を調べたところ、フランスは国、電力会社(フランス電力公社=EDF)にメーカーのアレバが一体となり、英国や中国においてビジネスを展開しつつある。これは、1つのビジネスモデルとしての先行事例である。

日本でもメーカーは完全にビジネスだが、われわれも運転・保守・保全といった分野をビジネスにつなげ、資金協力を含めてワンセットで提供することができれば、ユーザーにとっても長い目で有益なのではないかと考えている。

特に原子力は発電所を建設したら終わりではなく長い間参画していくことが必要で、その間いろいろなリスクをはらむことになるので、ユーザー国、提供国双方のリスクヘッジ・マネジメントが重要となる。国が大きな枠組みでリスクヘッジしたうえで、われわれが自らの経営資源を注ぎ込むことに尽きるかと思う。(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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