[原子力産業新聞] 2008年10月30日 第2451号 <12面>

〈日本原子力文化振興財団最優秀理事長賞〉八代白百合学園高等学校(熊本県)・3年 松寺亜衣 この流れは何人(なんびと)たりとも止められぬ

環境にやさしい町――それが私の故郷である。海や山などの自然にも恵まれ、夜になると満天の星が見える。熊本県の南部に位置し、温暖な気候がつくり出す、甘夏みかんやデコポンの産地としても知られている。

私が産まれて、17年間経った今でも、表面的には何も変わらないかのようだ。しかし、新聞やテレビに目を向けると、私のこの故郷でさえ、環境問題は人事ではない。海水温の上昇・赤潮の発生・魚獲高の減少・さんごの北上と、水面下では、確実に変わり始めているのだ。

この状況下において、傍観しているだけでは何も始まらない。このままでは、将来、星のない夜空を眺めることにもなる。まず、できることから1つひとつ、やっていくことが必要ではないだろうか。

私の町、芦北町のリサイクル率は、ごみ処理の減量化・資源化に積極的に取り組んでいることもあり、県下でもトップクラス、全国平均以上の成果をあげている。芦北町に隣接する、環境都市水俣と一体化しているため、この数値がはじき出されるのだ。

とはいえ、近年、生活様式が循環型社会へと変化しつつあるものの、いまだ大量生産・大量消費・大量廃棄という浪費型であり、日常生活から大量のごみは排出され続けている。

限られた資源を有効利用し、環境への負荷をできるだけ、少なくするために芦北町では、「一般廃棄物処理基本計画」に基づき、ゴミ処理やリサイクルに取り組んでいる。行政・事業者・住民それぞれが、取り組む役割を明らかにし、実践するのだ。これが、高いリサイクル率を生む結果になっている。特に、隣の水俣市が、「水俣病」という世界に類を見ない産業公害を経験していることもあり、環境へのこだわりは、半端ではない。

水俣市は、環境マネジメントシステムの国際規格の認証を獲得した市でもあり、県内自治体では、初の取得である。全国でも、実に6番目だ。家庭ごみの資源化を図るため、22という徹底した分別を実施する。50から100世帯に1箇所ずつ、市内300箇所に、資源ごみステーションを設け、資源ごみを持ってきた住民1人ひとりが分別する。集められた資源ごみは、環境クリーンセンターでストック処理をし、業者に売却。その売却益は、排出量に応じて、各地区に助成金として還元される仕組みだ。

このように、芦北・水俣は、さまざまな取り組みを遂行しており、身近なことから1つひとつ――この言葉が、住民1人ひとりの心に強く根づいているのだ。

以上の如く、貴重な資源を効率的に使用することは、原子力においても同様である。人間が生活し、多くのゴミが出るように、原子力の利用においても廃棄物が発生する。

その中には、放射能レベルが高いものも含まれる。それを、どのように安全かつ、確実に処分するかが重要な課題となる。多くの資源を輸入に頼らざるをえない我が国は、使用済み燃料もリサイクルするのだが、このリサイクルした使用済み燃料抽出プルトニウムの処分も容易ではない。

放射性廃棄物を、ガラス原料とともに高温で溶かし合わせたものを容器に封入し、冷やして固める。更に、金属容器に密封し、地下300メートルより、深い安定した地層中に処分する。人間の生活環境に影響を及ぼさないためにも、高いレベルのチャレンジが続いているのだ。

1966年に東海発電所において、日本で最初の原子力の平和利用が開始されてから、約40年もの年月を経た。

一方、人々の幸せを否応なしに奪った原爆投下・旧ソ連のチェルノブイリ原発事故。二度と忘れられない出来事に対し、人々が恐怖を感じ、不安を抱くのも無理からぬことであろう。

しかし、これは、私たちがある一面だけを見て、原子力全体を評価していることに過ぎない。私が住む九州は、玄海原子力発電所・川内原子力発電所が稼動している。

日本で運転中の54基のうち、6基を占めているのが、この2つの発電所だ。全体の9分の1ではあるが、毎日、猛暑日が続き、7月は過去最高の消費電量を記録した我が国の中で、特に、九州は、この2つの発電所に助けられているといってもよい。

このように、物事には、表があれば、必ず、裏がある。それと同様に原子力にも、メリットもあれば、デメリットもあるのは当然なのだ。

私たちは、原子力のある断片を見て、多くの利点や、可能性に対し目をつぶっているのではないか。それを見出していくのも私たち人間なのである。

少ない燃料で多くの発電ができること、一度使った燃料をリサイクルする効率性に優れていること、二酸化炭素を出さないこと等、原子力発電は、私たちの文明生活を維持するだけでなく、環境にやさしいクリーンな電源なのだ。

特に、昨今は、原油価格の高騰で、公共機関を利用する人が増えた。かつては石油の輸出国であった中国も、現在では、国内需要をまかないきれず、中東などから多くの石油を輸入している。

しかし、もともと石油の埋蔵量には限りがある。人口13億、世界第2位のエネルギー消費国である中国の発展が、世界のエネルギー情勢に、大きな影響を与えているのは間違いない。そのため、諸外国は新たな原発開発の政策へと大きくかじをきった。

そんな中で、私たちが持続的な文明生活を維持するためには何が必要か。唯一の被爆国である我が国が、原子力の平和利用のために、どういった対応・貢献を迫られているのか。まさに、我が国のリーダーシップが問われているのである。

私の故郷である芦北町の自然、ひいては、満天の星が輝く地球を未来へ残すため、原子力という潮流は世界へ向けて流れ出した。堰をきった、この流れはもう何人(なんびと)たりとも止められない。私たちは新たな「原子力新時代」の、今まさに、入り口に立っているのだ。


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