[原子力産業新聞] 2008年10月30日 第2451号 <5面>

「日本の文化的香り」のある 原子力国際貢献の姿追求を

司会 ありがとうございました。それでは田中先生、最後になりましたが、原子力グローバル化ラッシュも予想され、原子力先進国である日本の国際貢献、イニシアチブが求められる一方、他国との競争にも負けない国家戦略も必要かと思います。そうした中で、国内の足元固めも含め今一番大事なことは何か、本日の皆さまの議論を総括しながら先生の考えをお話しください。

田中 皆さんの高尚なご意見をすべてまとめることは無理ながら、原子力を巡る状況が最近、国内的にもずいぶん変わってきているだけに、10月26日の「原子力の日」にもちなみ、この座談会の議論を通じて、原子力関係者のみならず幅広い各界の人たちの間で「原子力をもう一回考える」きっかけになってほしいと思う。

その際、われわれはどうしても、「ビジネス」とか「国益」という言葉を使いがちで、一部の人には大変分かりやすいのだが、逆に、きょう議論されたように「もっと幅広く見るべきだ」という点はその通りだろうと思う。企業経営者は「ものづくり」を通して本当に国際的な意味での社会的な貢献として何ができるのかと真剣に考えているだろうし、また大学の人たちは、いかにして有意、優秀な人材を育てるのかを考えている。今はそうした幅広い目で見て、考えるちょうどいい機会ではないかと感じている。

私は歴史が好きなので今から100年ぐらい前を考えると、日露戦争後2〜3年を経て、これから日本がアジアの中でどうあるべきかと考えた頃だと思う。当時は、大学で一番優秀な学生が集まる講座は、地政学だった。現在とは状況はかなり違うのだが、やはりここは地政学的見地に立ち、全体状況をしっかり判断し、腰をすえて考える必要があるという気がしてならない。同時に、過去の失敗を繰り返してはいけない。

そうした中で今、わが国は原子力で何ができるのか、世界にどう貢献できるのかをよく考える必要がある。そのときに、先ほど和気先生が言われたように、いろいろな枠組みの中にさまざまな考察軸があり、シングル・イシューではなくマルチ・イシューで考えなくてはいけないとのご意見は、まったくその通りだし、大きな視点から、わが国が世界の中あるいは日本国内で原子力をどうするのかをしっかり議論するタイミングかと思う。

それはもう単にビジネスとかというレベルではないが、その一方で、フランスとか韓国のように官民一体でビジネスライクに大攻勢に出てくる国・企業もある。それでも私は、そういうところを横目にしながら、日本は日本ならではの特徴を生かした、あるいは、日本の文化的香りの高い形で世界の中の原子力に貢献できる姿が絶対にあるはずだと信じる。それを考えるチャンスが今かなと思う次第だ。

一例を挙げると、大学にも優秀な学生はたくさんいるし、原子力をライフワークにしようと思って入学してきて、私も例えば三菱重工さんのようなメーカーに就職してくれればと考えていたのに、その本人が途中で商社かどこかに消えてしまったケースもある。多分、日本の原子力政策にそうした文化の香りを感じられなかったか、あるいは、日本国が何をしようとしているのか見えなかったのではないかと思う。

そういうようなことについてもよく議論し、しっかり詰めて、一番優秀な学生が原子力を意欲的に学んでくれるように育てていくことが大事ではないかと、最後にそんな思いが過ぎった。

司会 本日は皆さんのお話しを伺い感動すると同時に、原子力についてもっと考えなければいけないとの思いを新たにしました。長時間にわたり、本当にありがとうございました。(了)


Copyright (C) 2008 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.