[原子力産業新聞] 2008年11月20日 第2454号 <3面>

米DOEの原子力諮問委 次期政権に積極推進を勧告 21世紀の政策・技術で報告書

米エネルギー省(DOE)・原子力局の独立の諮問機関である原子力諮問委員会(NEAC)は12日、「原子力――21世紀の政策と技術」と題する報告書を公表し、原子力がエネルギー供給保証や環境保全、核不拡散に与える影響と役割について政治的および技術的側面から検証するとともに、新政権のDOEに対して、米国がユッカマウンテン計画も含めた原子力計画を継続し、国際的なリーダーシップを発揮するためにグローバルなアプローチを取ることの重要性を訴えた。

1998年に設置されたNEACはW.マーチン元DOE副長官を委員長に、ノーベル賞受賞者を含む著名な科学者や原子力分野の学識経験者、連邦政府の官僚、および産業界リーダーなどが参加。日本人としては植松邦彦・元OECD原子力機関事務局長が昨年末から加わっている。

今回の報告書は今春、D.スパージョン原子力担当次官補がNEACに作成を依頼していたもので、NEACは「政策」と「技術」の2小委員会を設置し作業に当たった。

「政策小委員会」は次期大統領が政策を検討する際に必要となる重要な選択肢と意義の追求が役割。エネルギー自給率の改善や温室効果ガスの排出抑制などの点で、原子力を米国のエネルギー構成要素の1つとする利点を強調する一方、原子力発電所建設に要する資金や所要時間の面でリスクと不確実性が存在すると指摘した。

こうした不確実性により、将来の原子力開発に関して確実な判断を下すことは難しいと結論付けており、あり得る開発シナリオとして、(1)新規原子炉が建設されない低成長シナリオ(2)新規に12基以上(1700万kW相当)の原子炉が建設される中成長シナリオ(3)4500万kW分の新規原子炉が建設される高成長シナリオ――の3種類を提示した。(1)の場合は経済成長率の低下、電力料金の上昇を招くとNEACは予想。(2)、(3)については、建設される原子炉の多少に関わらず、廃棄物管理や安全性など取り組むべき課題に変わりはないとした。ただし、(2)では温室効果ガスの排出量に実質的な削減は見込めないこと、(3)では排出量を抑えられる反面、原子力発電を支えるインフラ整備が追いつかないなどの点を指摘している。

燃料サイクル関連では、研究開発の結果、ユッカマウンテンを含め多くの地点で廃棄物貯蔵の難しい状況を大きく変えることができるとNEACは指摘。米国は放射性廃棄物を処分するその他の選択肢を模索しつつ、ユッカマウンテン計画への許認可手続きを完遂すべきだと強調している。

NEACはまた、米国政府が原子力の安全性や処分場の科学体系に配慮しつつ、世界的なリーダーシップを発揮するために一定レベルの技術力を確保できるような原子力政策を策定・明言すべきだと指摘。新政権のDOEがホワイトハウスの主導の下、関係当局や利害関係者と協力して取るべき措置として、次のような政策を勧告した。すなわち、(1)研究開発ロードマップの策定と実施(2)必要とされる要件を満たした労働力の育成(3)許認可手続きの改善(4)世界の事業者の燃料所要量を保証した上での核兵器拡散リスクの極小化−−などだ。

一方、「技術小委員会」では、原子力計画に利用可能な施設を評価し、政策小委が提示した開発シナリオに適合する研究開発プログラムとして、次の点を勧告した。(1)原子炉の運転実績改善と寿命延長(2)優秀な運転員の確保(3)第4世代炉の研究開発(4)持続可能な燃料サイクルの創出に必要な国内施設の性能向上と国際施設の共同利用拡大(5)「常陽」や「もんじゅ」など高速炉の技術能力を国際協力計画で活用――など。

優先順位の高い施設の多くでは改修のための投資が必要で、NEACはそうした体制整備のための戦略的なイニシアチブが不可欠だと指摘。燃料サイクルや高速炉の技術開発のように長期的かつ高額の資金を要する研究開発については特に、国際協力に重点を置くべきとの考えを示した。

こうした状況からNEACでは、現在の計画や施設を評価し、施設の性能向上など長期的な計画を提案する分析結果をDOEが次期政権に提示する必要があると明言。意欲的な新規の原子炉計画が進展しない場合でも、米国には充実した原子力研究開発が必要だと訴えている。また、DOE原子力局は軽水炉でのワンス・スルー燃料サイクルを含め、原子力インフラの要件評価の範囲を広げるべきだとしている。

さらにNEACは、例え新規原子炉が全く建設されない場合でも、既存原子炉の安全運転、廃棄物の安全管理、あるいは、米国が国際的な議論の場で主要な立場を維持するだけの研究開発は必要だと強調。2030年で原子力計画を終了させるのは重大な過ちであるとの見解を明らかにした。(フル・テキストは http://www.ne.doe.gov/neac/neacPDFs/NEAC_FinalReport_111208.pdf 参照。)


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