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[原子力産業新聞] 2008年12月18日 第2458号 <4面>

2008年回顧 光と影が交錯した1年 困難な中にも光明あり

今年の原子力界を振り返ると、ひときわ「光と影」が共につよく交錯する、対照的な年だったという印象を受ける。

まずは「影」の部分から。日本では新潟県中越沖地震で被害を被った柏崎・刈羽地区の住民が、二回目の厳しい冬を迎えている。いまだに柏崎市と刈羽村では合計約600世帯、1600人の避難住民が各所の仮設住宅に分かれて、不安定な生活を続けている。

被災した柏崎刈羽原子力発電所の全七基、合計出力821万kWを有する世界最大の原子力発電所も停止し、1年半近くたったいまも止まったままだ。新しい耐震基準による耐震安全性評価や耐震強化工事が懸命に行われており、対策が進んでいる7号機では、地震後に検査のために炉心の全燃料を取り出していたものを、再び炉心に戻すまでに作業は進んだが、まだ、運転再開時期を計画俎上にあげられる段階にない。

日本の原子力発電所55基の平均稼働率も2007年度は60.7%と、03年度の59.7%をわずかに上回ったものの、原子力発電導入の一時期を除けば最も低い水準に顔をそろえた。今年度の稼働率もいままでの実績をみる限り、昨年度をも下回る可能性が高い。

前回の稼働率低迷の原因は、 電力会社のデータ改ざん問題などの影響で原子力発電所が次々と停止したことが大きく、今回は大地震という天災によって一瞬のうちに長期停止状態に追いやられたもので、原因は全く異なる。しかし、国民生活に欠かせない電力の安定供給や、国際約束となっている地球温暖化対策での二酸化炭素排出量削減に大きなマイナスとなっており、原油価格の異常高騰は収まったとはいえ、原子力発電への期待が高まれば高まるほど、その潜在的な能力との落差が残念でならない。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場の「文献調査」地点も、2002年12月の公募開始後6年たっても、結局応募を取下げた高知県東洋町を除いては、まだ出てきていない。国も「ここ2、3年が正念場」として、地方自治体からの応募を待つだけでなく、国からの文献調査申入れにも道を開き、地域振興の交付金も増額措置を講じてはいるが、いまだ成果はあがっていない。

「影」の面も多い1年だったが、今までにない明るい「光」を放つ出来事も多かった。

4月の原産年次大会に、福田康夫首相(当時)が現役首相として初めて出席し、「原子力発電は地球温暖化対策の切り札」と力強く表明し、原子力開発の重要性について初めてと言ってよいほど踏み込んだ発言を行った。これは、6月の青森市でのG8エネルギー大臣会合、7月の北海道洞爺湖サミット宣言へと続く主要国際会議で、我が国が基本方針を明確に掲げ、世界各国をリードしようとする熱い思いを示す先駆けとなった。その結果、「エネルギーの安定供給と地球温暖化対策のために原子力発電は不可欠」との合意が世界の首脳間でなされ、世界のエネルギー消費の約64%を占めるG8+中国・韓国・インドのエネルギー大臣会合での宣言文書に盛り込まれたことは今までになく、歴史的にも画期的な出来事として結実した。

「原子力ルネッサンス」という言葉が世界中で飛び交い、一部の主要原子力部品メーカーでは、工場の増設や製品の増産をし始めた。米国が30年ぶりに原子力発電所の建設に乗り出そうとしているし、世界人口一位の中国も、それに続く二位のインドも、今後さらに原子力開発に重点を移そうとしている。昨今の米国発の金融危機の影響が心配されるところだが、原子力エネルギー供給の必要性に変ることはなく、「原子力ルネッサンス」本流への影響はそれほど大きなものにはならないだろうとの見方もある。

この流れの中で、核不拡散条約(NPT)に加盟せず独自に核兵器開発を行ってきたインドに対して、米国は民生用の原子力協力協定を結び、同協定発効の条件としていたインドと国際原子力機関(IAEA)との保障措置協定締結、原子力関連資機材の輸出管理に取り組む原子力供給国グループ(NSG)での承認に指導力を発揮し、共に同意に持ち込んだ。両審議過程では、複数の国から慎重論も出されたが、インドの自発的核実験凍結などを条件に、日本もコンセンサス合意に同意した。インドの核実験凍結の継続、民生用原子力施設へのIAEA保障措置の適用拡大などの面を重視し、何より世界最大の民主国家で経済発展著しいインドが、原子力分野でも国際社会に溶け込むきっかけを作り、共に地球温暖化防止に寄与する政策を進める重要性を重視した結果だ。

好むと好まざるとに関わらず、いまや経済、社会、環境問題などはいとも簡単に国境を越え、グローバル化され、互いに関連付けられている。

原子力開発は個々の国の政策によるところが大きいが、民間では現実に、企業間の協力と競争が世界的に展開しつつあり、その結果、日本の原子力開発が世界経済にとっても大きな力となることを望むばかりだ。


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