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[原子力産業新聞] 2009年1月6日 第2459号 <2面>

【展望】今年を稼働率向上への転換点の年に

日本経済も、それを大きく支える原子力も、「厳しい時だからこそ、夢を、未来を語ろう」と広く呼びかけるべきか、このような時だからこそ、「足元を固めて、地道に歩みを進めるべき」と言葉少なく語るべきか迷う、そんな年の初めを迎えている。

米国発の金融危機による世界的な景気後退の中で、原子力計画という実態経済が、どこまで影響を受けるかよく分からない。WTI原油先物価格は昨年7月のバレル147ドルから12月には30ドル前半へと、史上最大の上げ下げを記録した。一方、長期的にみると原油生産はピークを迎えた、と主張する識者も増えている。

今年1月に正式就任する米国のオバマ民主党新大統領は、この難局を乗り越えるために、新エネ開発や高速道路の大規模工事などを大々的に行い、景気や雇用の下支えを行おうとしているが、送電網や原子力発電への投資にもさらなる政策誘導が追加されるかどうか。せっかく沸き起こった原子力発電建設の機運が後退し、この機に投資を怠り先送りするようなことがあれば、米国での電力供給の脆弱性改善だけでなく、二酸化炭素排出削減への道が遠ざかり、世界が必死で追求している地球温暖化防止対策に水を差すことになる。また、ブッシュ政権が打ち出した燃料サイクル路線の象徴「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」(GNEP)計画と、エネルギー省(DOE)が原子力規制委員会(NRC)に許認可申請しているユッカ・マウンテンでの使用済み燃料の地層処分場計画の安全審査の行方が、気になるところだ。

翻って日本の原子力の現状はどうか。

原子力発電の昨年度稼働率は、軽水炉が定着して運転されるようになってから、実質的に最低水準にあり、潜在能力がありながら基幹電源としての使命を全うできていない。まずは、1年半前の中越沖地震で停止が続いている柏崎刈羽原子力発電所全7基の早期運転再開が待たれるところだ。

原子燃料サイクルの面でも、六ヶ所ウラン濃縮工場は1998年には年産1050トンSWUの濃縮能力から、遠心機の運転寿命がきて相次いでユニットが停止し、今では定格150トンSWUの1ユニット単位さえ下回っている状態だ。新しい遠心分離機の開発・導入が遅れ、段階的に製造・設置を開始する2010年度までは、濃縮工場保有国・日本の地位を守るための綱渡り状態が続く。六ヶ所再処理工場も、試運転に入ってから6回目の竣工延期に見舞われ、現在、2月竣工をめざして苦闘している。原子燃料サイクルの1つの終結点となる高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地、そのための「文献調査」地点の市町村長による応募には、少なくとも当該県知事の」当面は見守る」という強い政治的意志なくして、新たな展開は望みにくい状況だ。

一方、この1月からは、原子力発電所に対する新検査制度が導入され、安全規制がより科学的・合理的に行われるようになると同時に、事業者により重い自己管理責任が求められるようになる。昨年4月からの導入も当初考えられたが、地元自治体などへのよりきめ細かな説明を行うことを優先し、時期を遅らせての導入となった。すぐに効果がでるようなものではないが、あれが日本の原子力安全と稼働率改善の転換点だったと、歴史的な評価が得られるような結果を示したい。

今後、世界人口がさらに増加する中で、日本の人口は減少に転ずる。電力需要も経済産業省がまとめた電力供給計画では、今後電力の伸びは、10年間で1割の伸びに届かない低成長を見込む。それでも発電電力量に占める原子力の割合は2017年度には41.5%(07年度25.4%)にまで高まり、電源ベストミックスの中でも、フランスほどではないが他の電源シェアを圧倒する原子力発電国となる計画だ。全国の電力会社が計画しているプルサーマルも、一度はつまずいたが、その後の計画は着々と進みつつある。

地球温暖化防止では、京都議定書で定められた2012年までの削減約束(日本は90年比マイナス6%)を求められるだけでなく、今年末にコペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)では、2013年以降の削減枠組みを決めることになっている。日本は産業セクター別アプローチと、クリーン開発メカニズム(CDM)への原子力発電算入を要求している。

ただし、足元の原子力発電の平均稼働率は約60%と低迷しており、98年度の実績値約84%を達成していれば二酸化炭素の排出量はそれだけで5%削減できるはずだが、それでも日本全体では12年までにさらに4.3%の削減上乗せが必要となっている。

日本は、京都議定書で定められた二酸化炭素の削減目標だけでなく、2020年の中期目標、さらにはその先の2050年目標に向かって、原子力発電の稼働率向上と燃料サイクルの確立を最大の武器にしていくべく、再度の国民的合意と覚悟が必要だ。


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