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[原子力産業新聞] 2009年2月19日 第2466号 <2面>

【シリーズ】原子力発電「支えの主役 部品、機器、サービス企業編(8)非破壊検査 パイオニアとして半世紀 高度な安全技術を開発・提供 日本一の高資格者集団 3400名以上認定受ける

超音波探傷試験(UT)、放射線透過試験(RT)、磁粉探傷試験(MT)、渦流探傷試験(ET)など各種の非破壊検査技術は、幅広い産業の安全性や経済性の向上に大きく貢献している。原子力施設の安全性確保でも重要な役割を担い、独立系や事業者系の検査企業が事業を展開する。「非破壊検査株式会社」は非破壊検査のパイオニアとして、一昨年、創立50周年を迎えた。原子力関連の業務が順調に増大する中で、「個々の社員の技術の向上と社員間の力の平準化に全力を挙げている」(岩橋次郎・常務取締役技術本部長=写真)。

非破壊検査は、1957年に現会長の山口多賀司氏が、日本で初めて安全技術サービスの事業化を目指して大阪市北区に設立した。石油パイプライン、水圧鉄管などで着実に受注を伸ばし、その技術は、64年に行った東海道新幹線のレール継ぎ目溶接部の全線検査で広く知られるようになった。この時、日本で初めてコバルト60を使用した放射線透過試験方法を確立した。

原子力施設の経験も長い。初めて手がけたのは66年に着工し、我が国初の商用軽水炉となった日本原子力発電・敦賀発電所1号機。

その後、72年の三菱重工業・神戸造船所との品質保証協定の締結により、原子力発電分野の事業が本格的に拡大する。「三菱重工業は原子力発電プラントにとって非破壊検査技術が重要と考え、アウトソーシングとして育てることを考えて頂いた」(同)という。この協定に前後して関西電力の美浜、大飯などが相次いで着工する。

プラントメーカーとともに、電気事業者からの検査業務も拡大。現在、営業拠点、事業部など全国の事業所は26か所となっており、各原子力発電所をはじめ六ヶ所再処理工場などの原子力施設の検査業務も行ってきている。

最近の同社の年間売上高二百数十億円の内、原子力関係はほぼ40%を占める。この比率は徐々に増大してきており、石油やガスプラント、建築物、自動車・産業機械など幅広い分野でも業務拡大を進めるが、原子力分野は同社の事業の中で大きな位置を占める。

様々な産業の中でも原子力分野の検査は、最も厳しい業務を要求される。このため従来から全社挙げて検査技術の向上に取り組んできており、公的認定機関による社員の技能資格認定者は昨年10月現在で3440名あまりに達する。現在の社員は約550名のため、平均すると1人あたり6件以上の資格を有することになる。日本非破壊検査協会のUT、RT、MT、ET、PTなどの認定者だけで1800名近い。日本一の高資格者集団を自負する。

原子力発電所の健全性を評価する非破壊検査員の測定能力を確保するための民間自主基準として、03年に発足したPD(パフォーマンス・デモンストレーション)資格試験合格者は現在4名で、「当面は10名を目途に資格者を増やしたい」(同)という。「個々の社員の技術向上と社員間の技術レベルの平準化に必死に取り組んでいる」(同)が、「原子力分野は他の分野のように、検査データと実際のキズや欠陥を見比べ、照合できるケースが少なく、この体験の少なさが課題と考えている」(同)という。発電プラントと同様の使用条件で応力腐食割れ(SCC)を発生させた試験片も入手可能だが、1個の試験片が数百万円する。また「欠陥がない検査が続くと欠陥の無さに慣れてしまう。現場では欠陥がどこかにあるはずという意識の継続が重要で、それが優れた検査員の条件」(同)という。

より高度な検査技術の開発にも積極的に取り組んできた。93年設立の安全工学研究所では、現在、AE(アコースティック・エミッション)の幅広い応用とモニタリング技術、材料劣化に関する非破壊的評価技術などの開発を進めている。

AEは、金属材料などに変形やき裂が発生した際、材料がひずみエネルギーを弾性波として放出する現象。この弾性波を材料表面に設置したセンサーで検出、信号処理し材料劣化の評価に利用する。原子力発電プラントの新検査制度において位置付けが高まる状態監視技術の1つ。センサー数が100以上という大規模のAEシステムの導入も検討されているが、同社は現場の検査員が容易に使用できるポータブルタイプの導入を目指す。「あまりにシビアに検知しても本当の異常に辿り着けないケースもあり、正常か異常かのエンジニアリング・ジャッジが出来るかどうかがポイント」(同)という。

保温配管などに対し、探触子リングが設置可能な位置から多様な超音波を伝搬させ、広範囲に存在する腐食の有無を確認できる長距離超音波探傷システム(ロングレンジUT)、回折波を用いることにより内部のキズの高さの測定精度が高い超音波画像解析システム(TOFD)など様々な検査に対応できるシステムも有する。「現場の必要性に応じ、個々の検査員が様々な技術をアレンジして使いこなせることが当社の強み」(同)。

一方、今後の海外展開について、「非破壊検査は資格の世界であり、米国の非破壊検査協会などとの資格の相互認証は段階的に進んでいるものの完全ではなく、この点が課題になる」(同)という。米国や欧州各国間では、実技優先か書類優先かという基本的な考え方の違いもある。諸外国と被ばくの規制値も異なり、日本の被ばく規制値は諸外国の2倍から5倍厳しく、この点も課題と指摘する。


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