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[原子力産業新聞] 2009年3月19日 第2470号 <4面>

【視点】低利用率は国民的損失 安全・安定運転通じ、高稼働実現を

このほど、米プラッツ社は、世界の原子力発電所の国別の平均設備利用率をまとめ、ニュークレオニクス・ウィーク誌3月5日号に発表した。

このデータによると、我が国の原子力発電所は、個々のプラントを見ると、世界の439基中、トップテンに3基が入るなど、健闘しているものもある。しかし国全体での平均利用率は、2008年は中越沖地震や設備トラブルへの対応などで59%となり、世界平均値の79%と比較して約20ポイントも低い値となった。わが国の平均利用率は、02年までは80%程度(現在の世界平均値)を維持していたが、近年は不祥事などにより低迷しており、発電設備の有効活用がなされていない。

原子力発電所の安全・安定な運転によって、高い設備利用率を達成・維持していくことは、低炭素社会の実現・維持やエネルギーの安定供給はもとより、高価な化石燃料の節約にも資し、国民社会・経済に大きなメリットをもたらすものである。

世界と日本の平均設備利用率の差20ポイント(年間864億kWhに相当)は、これを原子力発電で賄った場合、石油火力発電と比較して6200万トンのCO削減が可能となり、これは1990年の日本全体の排出量の5.0%に相当、排出量取引価格では1600億円に相当する。加えて、原子力発電の燃料費が火力発電より安価であることから、石油火力と比較すると4600億円(注)のコストを削減することができる。

(注) 04年電気事業分科会コスト等検討小委資料の発電コストに基づく試算であり、現在では原油価格の高騰によりコスト削減効果がさらに大きい。

長期停止炉を除いても低い利用率

地震やトラブル等の影響により昨年1年間運転をしなかった柏崎刈羽原子力発電所1〜7号機、浜岡原子力発電所1、2号機、志賀原子力発電所1号機の10基を除いた45基で、平均設備利用率を計算しても約73%であり、世界平均の80%には、はるかに及ばない。

個別のプラントの利用率を見ると、平均の73%より低いものが19基、平均以上が26基であり、少数のプラントが平均値を下げていることがわかる。利用率が低かった主な原因は、7基で蒸気発生器溶接部の傷の対応などで定検を延長したこと(最長は定検期間12か月)、また8基で原子炉容器上蓋取替などの大型設備の予防保全工事や耐震裕度向上工事等で長期間(4〜5か月間)の定検を実施したことなどである。

保守管理の強化・徹底で長期停止防止を

世界平均の80%程度まで我が国の平均設備利用率を向上させるためには、発電所の保守管理のより一層の徹底・強化などによって、上記のようなトラブルの再発を防止し、予防保全に万全をつくすことで、プラントの停止期間の長期化を避けるようにすることが必要である。

さらに、米国・韓国等の世界トップクラスの平均設備利用率90%にまで向上・継続させるには、運転中保守の導入等保守管理の高度化や、許認可手続きなど規制制度の見直し等による定検期間の短縮、停止後運転再開の早期化などについて、現在、産官学において検討が進められている諸外国の諸施策・良好事例等を、適切に評価・反映していくことが必要である。

世界の「手本」となる原子力発電に

世界では、欧米諸国が原子力発電所を新規に建設、アジアや中東諸国は原子力発電の開発・導入を急速に進めつつある。我が国の原子力産業界が国際協力・国際展開を進め、原子力分野で国際貢献を行っていく観点からも、我が国の原子力発電は、世界の手本になることができるように、国・事業者と地域との信頼関係の構築・強化や、事業者による設備の重要度に応じた保守管理の徹底・充実・高度化、国の規制制度の不断の見直し・改善などを行いつつ、安全確保を最優先にし、安全・安定な運転を通じて高設備利用率を達成・維持していくことが喫緊の課題である。(日本原子力産業協会)


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