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[原子力産業新聞] 2009年3月26日 第2471号 <2面>

【Fresh Power Persons (2)】武蔵工業大学院エネルギー量子工学専攻 須山 澄氏 原子力界の結束を促し技術で国際・社会貢献

―原子力の出会いと、専門は何か。

須山 大学での研究の第一目標は「社会貢献」にあり、その1つとして放射線利用によるがん治療を究めようと思い放射線物理学を選択した。一方、私はなぜか小学生の頃から「エネルギーってどうして発生するのだろう」と興味を持った。たまたま誕生日が8月15日の終戦記念日だったことから原爆のエネルギーの巨大さと悲惨さを知ったのが出会いだが、「あれだけのエネルギーを有効利用すれば絶対世の中に役立つ」と信じ、原子力発電に行き着いた。また、アニメ「はだしのゲン」の影響からも原子力は「すごく怖い、危ない」だけのイメージが強かったので、何とかそれを払しょくしてみたいとの意欲にも駆られた。

したがって、大学院の授業では原子炉の設計や核物理学を専攻し、実習で京大原子炉実験所へ行き臨界実験も実体験するなど、放射線利用のみならず「原子力全般」を学んだ。

―武蔵工大の「学生表彰」受賞について。

須山 「学生表彰」は、大学内の課外・研究活動で優秀な実績を収めた人が対象となるが、私は課外活動で原子力学会の部会である学生連絡委員会に所属。同じ部会であるシニアネットワーク連絡会と協力し、学生との対話やセミナーの企画等を通じて学生と産業界との橋渡しにも熱意を注いだ。

こうした活動を通じて一番印象的なのは「皆が原子力を他人事のように感じ取っている」点だ。発電と放射線利用や再処理では仲間意識が薄くばらばらで、同じ原子力の領域に立つ人でさえ、「再処理問題」が大きな課題になっているにもかかわらず、他人事のように冷めきった目で見る人が多い。同じ仲間内なのに、どうして再処理問題まで「一緒に悩んであげないのか!」。原子力の世界を1つに束ね力を合わせれば、もっとダイナミックな存在を世間に示せるのではないか。

そもそも、地球温暖化問題を解決する手段として原子力が今一番有望視されているはずなのに、どうして世間がそれに呼応してくれないのかと歯がゆく感じ、「個人レベルから動かす活動をしたい」というのが、私が学生連絡会の企画に携わった端緒だった。

しかし、原子力専攻の学生をよく見ると、本当に原子力が好きで勉強したくて大学に入学してくる人は少なく、大半は就職を最優先に考え、そのために最近ホットな原子力を選択する人が増えているのではないかと思う。したがって、「就職セミナー」とか民間企業等の対応が加わる企画には、参加者が一気に膨れ上がる。そうではなく、私たちはもっと原子力そのものへの興味、研究に熱くなってほしいとの思いでプロジェクトを企画するのだが、現実には難しい。

―4月からの就職先として原子力プラントメーカー(東芝入社予定)を選んだ理由は。

須山 当初は放射線の医療照射でがん撲滅を目指したが、就職先はプラントメーカーで原子力発電の研究・技術開発の道を選んだ。自分のエネルギーへの興味と社会貢献を両立したい。エネルギー分野は幼少の頃から関心を持ったライフワークで、地球を温暖化から救うために原子力発電所を増やしていけるよう安全な技術開発に貢献、世界を舞台に貢献したい。

同時に、最近は「原子力社会工学」的視点が重視され社会的受容性を含めた原子力全体に通用する教育の一連の流れができつつある。私もそのはしりの一人として、そうした流れを崩さないよう努力したい。いずれにしても私がメーカーや日本、そして世界に望むことは、原子力に携わる人たちがもっと「原子力分野は1つ」という熱い思いと仲間意識のもとにしっかり手を携えていってほしい。また、原子力の外部にいる人たちにも、地球を温暖化から守るためにはどうしても原子力が必要だという逃げ道のない瀬戸際に来ていることを身近に感じ取ってほしい。「原子力は他人事」ではすまされない。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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