日本は踊らず「足固め」のとき 導入国は長期的視点と覚悟を

「地域共生」と「規制の体制」再構築を

司会 井川さんは、まさにそのパネリストの一人として参加されるが、「市民社会における原子力の役割・相互理解」についてどのような視点か。

井川 今の未曽有の経済危機の観点に立つと、ある程度、地球温暖化対策・CO排出削減の切迫感が薄れざるを得ないと感じている。

そうなると、原子力を推進する立場の人たちはもう一度考え直し、改めて「原子力の意義」について一般市民に懇切ていねいに説明していかなければいけない。私から見ると、今まで「低炭素社会」ばかりに偏って説明されているような気がしてならない。化石燃料は、将来世代になるべく大事に残して、長く利用できるのが一番望ましいと考えるので、「エネルギー・バランスのよさ」という視点からもしっかりした説明が必要だと思う。

一方、原子力発電所の立地地域の観点に立つと、日本の少子高齢化や国勢減速の影響で、国や地方財政がひっ迫し、原子力立地地域も非常に厳しい経済情勢にあることを考えれば、これからは原子力発電所を単に新増設誘致しても、地方は豊かにならないのではないか。

そうなると、一義的にはその自治体が豊かになるための自助努力が前提ながら、それをどう国民全体(政府)と事業者側で支えていくかという連携、共生のあり方が原子力を推進する上で非常に重要になる。

特に、先ほどからお話あるように現有の原子炉(軽水炉)を、稼働率向上を含め徹底的に有効活用するという喫緊の課題に加え、中長期的にはリプレース、廃炉はじめさまざまな問題が控える中、地域の皆さんの理解、協力が不可欠となるだけに、立地地域との「共生のあり方」を、もう一度皆で知恵を出し合い考えなければいけないと思う。

また、原子力は安全が大前提なので奇策を考えてもうまくいくはずがなく、一番大事なことは地道に安全に運転するという実績の積み重ねだ。そこで私が最近大変心配なのは、「規制」の体制が弱いのではないかという点だ。これは、規制の権限の強弱ではなく、合理的な規制を速やかに、スムーズに行うという意味だ。例えば、耐震性のバックチェックを進めているが、非常に時間がかかっている。新指針ができてから約3年経つのに、まだ2、3か所しか確認できていない。こんなにのんびりやっていたのでは、まず立地地域の人たちは安心できないだろう。

また今後、廃炉など新たな課題が出てくる中でもう1つ気懸りなのは、地域の各自治体の安全担当者のほうが、ひょっとすると政府の安全担当者より詳しいのではないかと感じるときがたまにある。例えば、各種委員会等の報告書をパブリックコメントにかけると、地域の自治体の担当者から「これでいいの?」という意見書がきて、「あ、ごもっとも」というケースがいくつかあり、それは一体どういうことなのかと思う。もちろん国家公務員は2年か3年で移動するのに対し、地域の担当者は地場に密着して長年にわたりじっと見守ってきているという事情は分かるが、それに対抗できるだけの知識と専門性を国は担保できているのか、という不安感が生じる。それだけに、安全を確保し地元の信頼を得るためには、繰り返しになるが「規制」の体制をもっとしっかりさせる必要がある。国は、なるべく優秀な人材を多く配置して合理的かつ洗練された規制を実施していく体制を整備しないと、原子力は地域の人達に最終的に信頼されないのではないかという気がしてならない。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで