「次期R&D・人材育成」体制確立が日本の課題

司会 二人の米国オバマ政権への見方はほぼ一致しているようだが、井川さんは世界の全体的潮流と日本のあり方についてどのような見解か。

井川 私は世界各国政府が今、CO排出削減対策にどこまで本気で取り組み、その中で原子力にどれだけ投資しようとしているのかに疑問を感じている。そもそも原子力は政治的に「人質「にとられやすいのと、まだ一般国民の根源的な不安を払拭できるまでには至っていないところがあり、ちょっとしたトラブルが起きるとまたすぐ不安側にぶれることが必ずある。それだけに、世界中が今言われているほどこぞって原発の建設ラッシュに向かうという議論そのものが、まさにバブルのような気がしてならない。

日本としては今、もちろん世界の動静をにらんでおくことは大事だが、それに踊らされることなく長期的展望に立ち、世界に通用する技術開発や人材育成にもっと力を入れなければならない。そこが、どんどん劣化しているような気がするし、もし劣化しているならしっかり立て直す議論をもう一度しなければ、将来、本当に世界が動き出したときに日本は対応できなくなるのではないかと大変不安だ。原子力技術が専門の山名先生は、もっと強い危機感をお持ちでしょう。

司会 日本がこれからの原子力国際展開・貢献、さらに30年頃からの国内リプレースへ向け足元を固めるには、研究開発と人材育成・確保が要と言われ、井川さんも今指摘されたが、そのためには日本原子力研究開発機構等を中核とした現在の研究開発体制で対応可能なのか。

山名 井川さんの指摘はその通りだし、また今の体制のままでは、いろいろな意味で対応は難しいと思う。その理由だが、長期的な視点に立つ開発と、競争的資金を投入し実用効果を明確にする短期的な開発があり、長期は非常に大事ながら、それだけでは研究開発が硬直化してしまう傾向がある。また、短期だけでは長期的可能性、夢を見据えた研究開発ができない。したがって、その両方が必要ながら、わが国ではその組み合わせのバランスを欠いており、これが本質的問題の一つだ。そのために、研究開発の源泉となる「知力」が減退していかないかという点が恐い。「知力」減退の底流には、新しい若い技術、能力の参入があまり進んでいないという問題がある。つまり、頭のいい学生が本気で科学技術としての原子力に魅力を感じて、飛び込んでくるという動きが弱まっていると思う。これによって、ハードウエアよりは、むしろソフト面で原子力本来の根幹としての技術的安全基盤が崩れるのが一番恐い。とかく立派な施設とか、いわゆる「箱物「にお金と労力をかけがちな傾向があるが、どうせお金をかけるのなら、そのアクティビティーの中で新しい「知力」が湧いてくるようにしないと、次世代技術の根幹が維持できないと思うし、心配だ。

もう一つ大事なことは、日本の研究開発とか技術力の維持に関連するが、悲しいかな「マーケットがないと技術は育たない」という宿命がある。日本国内では原子力発電所の新規建設は現在13基で、しかも、それは大体既成の技術が中心となる。しかし、そうした原発プラント建設を海外で展開し、海外メーカーとアライアンスを組んで実績を積んでいければ、日本ならではのキャラクターが必要だということが国際的に拡大することで、日本の中での技術が育つ、あるいは次世代に継承できる、あるいは資金的にも研究開発基盤をしっかりさせるための経済的な余力ができる、といったさまざまな効果が期待できる。したがって、日本はそういった広い連携・グローバルパートナーシップのもとに世界に打って出ることにより、自らの技術・技術者を育て、自国での技術の将来的な保証も与えるという幅広い展望が開けると思っている。


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