【Fresh Power Persons(3)】東京大学院工学系研究科 原子力国際専攻助教 小田 卓司氏 「原子力社会工学」の視点考察 核不拡散技術で「米国追随」脱却を

東大院原子力国際専攻に「核燃料サイクル社会工学」寄付講座(東京電力)が開設されて間もないが、工学と社会との関係についての思いは。

小田 同講座の研究活動では、第一に、これまでとかくその場限りで終わりがちだった原子力と社会との関わり・活動をどう体系化し、効率的に作動するようにするにはどうしたら良いか、第二に「原子力発電と社会」の関係の中に、社会的要請のみならず国際的受容性が重みを増す核不拡散問題をしっかり取り込めば良いかを、明らかにすることがポイント。

私の専門は核融合の材料研究だが、社会工学の視点から特に核不拡散問題等を勉強するにつれ、「原子力の根源には危険がある。でもそれを工学でしっかり管理できる」という基本を理解しないで、最近の原子力人気ムードから「何となく」飛び込んでくる学生がふえているのが気になる。人気を本当に根付いたものにするには、原子力の負の部分についても大学で真正面から取り上げ、皆で一緒に考えていくことが肝心だ。

寄付講座でそうした教育をどう実践するのか。また、社会的受容性を高めるためのネックは。

小田 大学院に入ってきた学生に、初頭段階で原子力発電所の見学や諸活動を通じて社会的体験を提供する予定だ。専門の研究活動が始まってからでは余力がなくなり結局、単なる技術屋集団になり社会から離反しかねない。したがって今、寄付講座の先生方とそうした初頭段階での教育カリキュラムを開発中で、それが私のひとつの役割かと思っている。その際に重要な点は、社会と向き合うことの重要性を学生に明確に示し、教育の趣旨を納得してもらうことだ。

最近、大きな社会問題として報道される放射性廃棄物処分など原子力が抱える未解決の問題に一般国民が直面した場合、個々人は専門家ではないので周囲の専門家や信頼する有力者を頼って判断する人が多い。そのため、原子力分野からだけではなく、その他の関連分野を巻き込んだ働きかけも必要だ。とは言え、社会工学の視点であまりに社会の方を向きすぎ、国民の要求する「絶対安心」に応えようとすると、その分、本来の研究開発活動が薄まることは否定できない事実だ。

かつては原子力推進側の「絶対安全」への思い込みがさまざまな弊害の根源になったが、逆に今、市民側の「絶対安心」要請が嵩じて同じ轍を踏むようなことがあってはならない。それには、国が国政の場で原子力についてしっかりした方針を明示する必要がある。また、社会への見せ方を工夫するだけではなく、原子力工学がそのあり方自体を変えるべきときを迎えていると思う。

もう一点、最近の大学の教育システムは℃瘤閧ノ優しくない≠ニ感じる。社会的側面が重要になり、先生方も「やろう」と言うが、ではその活動が私たちの研究活動の成果として評価されるのかについて非常な不安と不満がある。自分でも社会や周囲を見る目が広がり大変プラスになったと思う半面、私の研究キャリアにとって本当にプラスか否かの判断は難しい。そこをしっかり評価するシステムを構築し、また、社会の求人ニーズも高めるのでなければ、真に社会のことを見る技術者は生まれないだろう。

核燃料サイクル社会工学に焦点を当てた寄付講座教育に協力しながら、自らの研究方針、将来展望は。

小田 核不拡散問題が今後、日本の国民的最重要課題であり、私が取り組みたいテーマだ。原子力技術ではこれまで、常に米国が新しい概念を生み出し、日本がそれに追随してきた。それだけに、核不拡散をテーマに幅広い視点でアプローチし日本ならではの独自概念を確立・発信し世界をリードする転機にしたいし、私もそういう人材の一人になりたい。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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