建設進む大間発電所 全炉心にMOX燃料が装荷可能なABWR

青森県下北半島、本州最北端の大間町に昨年5月、電源開発株式会社(J―POWER)が建設を開始した大間原子力発電所(フルMOX―ABWR、電気出力138万3000kW、14年11月運開予定=下に完成図)。

大間原子力発電所は、全炉心にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を装荷(フルMOX)できるABWRであり、プルトニウム利用において重要な役割が期待されている。電源開発にとって初めて手がける原子力発電所であり、地元の理解と支援を得て、建設計画は進められたが、新型転換炉(ATR)実証炉からの炉型変更、少数地権者との用地交渉の難航による配置計画の見直し、さらには原子力安全委員会が策定した新耐震設計指針の初めての適用炉となるなどを経て、08年5月に待望の着工となった。今号では、同発電所の建設経緯、フルMOX―ABWRの特徴、北国ゆえの全天候型建設工法の工夫などについて、同社の猪原敏照原子力建設部主管技師長に寄稿してもらった。

 1.はじめに

電源開発株式会社は、青森県大間町において全炉心にMOX燃料装荷を目指す改良型沸騰水型軽水炉(ABWR) 、所謂フルMOX―ABWRの大間原子力発電所の建設を進めている。

大間町は、左図に示すように下北半島北西部に位置し、発電所敷地は、津軽海峡に面した標高10〜40m程度のなだらかな海岸段丘と標高10m以下の海岸沿いの平坦地からなっており、敷地面積は約130万平方mである。

 2. 大間原子力発電所の主要経緯

大間町と原子力発電所の関係は、商工会が1976年に地域活性化のために原子力発電所新設に係る環境調査を町議会に請願したことに始まる。当社は、82年に原子力委員会のATR実証炉計画実施主体の決定を受け、大間町でATR実証炉建設の取組みを進めた。

95年に原子力委員会は、「ATR実証炉計画を中止、代替としてフルMOX―ABWR建設計画を推進する」決定をした。当社は青森県及び地元町村に対し計画変更を申し入れ、地元の理解と支援を得て、99年に大間原子力発電所建設の知事同意を経て、同年9月に設置許可を申請した。

しかし、建設予定地内のごく一部の用地交渉が難航を極めたため、当社は、地元の早期着工の強い要望も踏まえ、当該用地を敷地から除外し、炉心位置を南に200m程度移動させる配置計画の見直しを行い、04年3月に改めて設置許可を申請した。08年4月に原子炉設置許可を受け、5月に第1回工事計画認可を得て、着工した。

現在、本年秋の岩盤検査に向けて主要建屋の基礎掘削を進めている。

 3.フルMOX―ABWRの意義

我が国において、原子力発電はエネルギーの安定供給や環境保全の面から必要不可欠な電源である。また、供給安定性の一層の強化、ウラン資源の有効利用、放射性廃棄物の適切な処理処分の観点から原子燃料サイクルの確立を進めている。

このような状況において、大間原子力発電所は、95年の原子力委員会決定に基づき軽水炉によるプルトニウム利用、所謂プルサーマルの一環として全炉心にMOX燃料装荷を目指すフルMOX‐ABWRであり、軽水炉によるMOX燃料利用の柔軟性を拡げるという政策的な位置付けのもと、貴重なウラン資源の節約と有効利用に資するものである。大間原子力発電所では、フルMOX炉心において年間約1.1トンの核分裂性プルトニウムを利用する計画であり、これは六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの約2割強に相当する。

 4. 大間原子力発電所の概要

大間原子力発電所の設備設計は、基本的に先行ABWRの東京電力柏崎刈羽原子力発電所6、7号機を極力踏襲しているが、全炉心にMOX燃料装荷が可能なように一部設備について設計対応をしている。

MOX燃料を装荷すると、制御材の中性子吸収効果がわずかに低下する傾向、ボイド反応度係数がより負となる傾向がある。さらに、MOX新燃料は、核分裂性Pu−241の崩壊により燃料反応度が低下する、表面線量率がウラン燃料より高いといった特徴がある。

制御材の中性子吸収効果の低下に対しては、後備停止系であるほう酸水注入系の容量を増加するほか、設計余裕を増すため、一部制御棒の価値を増加している。

ボイド反応度係数がより負であることに対しては、炉圧力が上昇し炉心のボイドが減少するような場合には炉出力が増加し炉圧力はさらに高くなるので設計余裕を増すため、主蒸気逃がし安全弁総容量を増加している。なお、炉出力が上昇し炉心のボイドが増加するような場合には出力の上昇を抑制する効果が大きくなり自己制御性は向上する。

ほう酸水注入系の容量増加については、ほう酸水貯蔵タンク容量を29立方mから36立方mに増加している。また、一部制御棒の価値増加については、制御棒のホウ素10濃度を天然の20%から50%に濃縮した高価値制御棒を一部使用する。

主蒸気逃がし安全弁の総容量増加に当たっては、弁の保守点検作業の増加を抑制し、機器配置上の影響も考慮し、一弁当たり容量を16%増加(395トン/h→460トン/h)した大容量弁を開発した。これにより、弁数を18から16に低減しつつ、総容量を約5%増加している。

さらに、MOX新燃料の核分裂性Pu−241の崩壊による燃料反応度の低下に対しては、炉心流量制御範囲を拡大し、最大流量を既設の111%から120%に増加し、MOX新燃料の1年程度の装荷遅れによる燃料反応度の低下を補償できるようにしている。

また、MOX新燃料の表面線量率が相対的に高いことに対しては、フルMOX炉ではMOX新燃料の取扱量が多いので、MOX新燃料の受入れ検査を行う作業員の被ばく量低減のため、遠隔・自動のMOX新燃料検査装置を開発した。

なお、ABWRの燃料格子ピッチは、従来のBWRより大きくN格子と呼ばれる。燃料格子ピッチが大きいことにより、チャンネルボックス外の非沸騰水領域が大きく、MOX燃料装荷によるボイド反応度係数の絶対値の増加が緩和される。これは、全炉心でのMOX燃料利用におけるABWRの利点の1つである。

 5.大間原子力発電所の耐震設計

大間原子力発電所の二次審査中に新耐震設計審査指針が策定され、初めて新指針による審査が行われた。新指針に従い、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を設定した。

「震源を特定して策定する地震動」は、敷地周辺の地震発生状況、活断層分布などを考慮して、地震発生様式ごとに設定した。

「震源を特定せず策定する地震動」は、新指針で導入された新しい概念の地震動であり、活断層と関連付けることが困難な内陸地殻内地震の震源近傍の岩盤上の観測記録を収集して分析を行い、さらに大間サイト周辺の内陸地殻内地震発生の地域特性を考慮し設定した。

なお、大間サイトに設置した地震計の観測記録の分析より、建物・構築物や機器・配管系の主要な周期帯においては建屋が設置される位置での揺れは解放基盤相当位置の揺れよりも小さくなることが確認されている。耐震設計では、解放基盤から建屋に伝わる地震波の減衰は考慮せず、耐震安全性を高めるため、基準地震動と同じ大きさの地震波を建屋設置位置に入力している。

 6.大間原子力発電所の建設工法

大間サイトの気象条件や最新工法など考慮し、全天候型建設工法、国内最大級の大型クレーン、鋼板コンクリート(SC)構造などを採用している。基礎掘削開始から、建屋・設備工事、系統試験・起動試験を経た運転開始までの建設期間は、69か月を予定している。

全天候型工法は、左図に示すように建屋工事に先立ち鉄骨を組み上げて、仮屋根・仮壁で工事現場を覆うもので、天候に左右されない工事が可能となるとともに、仮設天井クレーン、モノレールを配置し、工事現場を工場化することにより効率的な工事が可能となる。

また、1200トンの国内最大級の大型クレーンを採用し、機器や構造物を一体化した大型モジュールの範囲を拡大している。作業環境の良い工場や現場の組立エリアで組立てた大型モジュールを大型クレーンで据付・組立てることにより工事の安全・効率化、品質の向上などを図っている。

原子炉基礎やタービン発電機基礎は、工事工程上厳しい箇所であり、SC構造を用いた大型ブロック工法により工事の効率化を図っている。

 7.さいごに

大間原子力発電所計画は、国、電力会社の支援を得ながら計画を進めている。これまで、大間町、青森県をはじめとする地元の多くの関係者の理解と支援により、着工に至ることができた。

大間原子力発電所は当社にとって初めての原子力発電所であるが、当社は、日本原子力研究開発機構の「ふげん」発電所、BWR電力会社の建設所、発電所への派遣などを通じて建設・運転・保守に必要な技術者を養成してきた。

現在、全社一丸となって、安全を最優先に、地元の方々から信頼される大間原子力発電所の建設に取組んでいる。これまでの関係各位の理解と支援に改めて感謝する。


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