【第42回原産年次大会】 セッション3 基調テーマ「低炭素社会における原子力の役割」 パネル討論 対話重ねることが重要 「市民参加」の制度設計も

枝廣淳子・環境ジャーナリスト「低炭素化社会の実現に向けたエネルギーの選択、市民の役割」

低炭素社会はあくまで手段で、目的は「地球の限界の範囲内」で「本当の幸せを創り出す」持続可能な社会の形成である。

低炭素社会への転換にはパラダイムシフトが求められる。使用量を見極めての消費、効率重視の中央生産型ではなく地域の特性を活かした分散型社会など「足るを知る」姿勢が必要だ。

原子力発電は、一箇所で作った大きな電気を各所へ運ぶという旧来型モデルに基づいており、新しいパラダイムシフトに適合するものなのか疑問が残る。

現代は多様な価値観の時代であり、エネルギーを考える際にもさまざまな観点からの議論が必要だ。一面的な議論でなく、コミュニケーションを大切にする共創型のエネルギー対話の機会を求めていきたい。

桝本晃章・日本動力協会会長/東京電力株式会社顧問「低炭素社会における原子力発電の役割を十分に発揮させるには」

低炭素社会に向けて原子力に大きな期待が寄せられている今、世界中で原子力発電所開発が進んでいくことは間違いない。日本は設備利用率の向上をめざしてほしい。

我々が求められているのは(1)安全であることはもちろん、さらに「安心」への要求に応える信頼回復(2)現場をもっと知ってもらい社会の共感を増やしていける「訴え」の充実(3)情報公開、事業運営の透明性――である。

市民の理解を得るため、エネルギーがあらゆる社会活動を支えているという事実、各種エネルギー源の状況と特徴、日本のエネルギー選択の基本的考え方、原子炉や放射線の安全性などを常に意識してもらえるよう自分たちの言葉で伝えていくことが大切だ。時に教科書的な理解だけで説明したのでは、納得が得られないことがある。双方向コミュニケーションで聴衆の関心と共感を呼ぶことを期待している。原子力の持つ可能性を信じて、未来の社会に活かしていってほしい。

井川陽次郎・読売新聞論説委員「低炭素社会のエネルギー〜報道の立場から」

地球温暖化問題の議論は一面的なものが多すぎる。まず低炭素社会のめざすところがはっきりしない。例えば税金や電気代などの物価が高くなる可能性、これまでのような利便性が得られなくなる可能性など、十分に語られているか。 一方、IPCC第4次報告書などで強調されている「適応」の大切さについては、新聞も原子力業界もあまり触れていない。

平成20年版の原子力白書には原子力に対する信頼が広がっているとする結論が出されている。しかし、白書が根拠としているエネルギー総合工学研究所の「エネルギーに関するアンケート」は首都圏のみを対象としており、一部の項目の回答を取り上げて原子力に対する「肯定的態度」が広がっており、同時に「脱原発」派も減っているというには無理が感じられる。この調査ではそれよりも「関心が低下している」こと、そして「情報公開、安全運転の大切さ」が示されている項目がある。

世論の活用については、過去も現在も悩めるところである。対話の場での議論を積み重ねていくことに意義があると考える。

八木絵香・大阪大学コミュニケーションデザインセンター特任講師「専門家と市民の協働――低炭素社会へ向けた取り組み」

今後、原子力に代表される科学技術の問題でキーワードとなる「市民参加」について、具体的にどのような市民の声をどの程度勘案すべきで、公平な議論のためにはどのような情報提供が妥当なのか、設計が必要な段階にきている。

対話型コミュニケーション実践への取り組みの1つとして、高レベル放射性廃棄物をテーマとし、推進の専門家と反対の専門家が討論する「原子力オープンフォーラム」を過去2回開催している。意見を異にする両者からみて「公平な場」を作ることに重点を置き、結論ではなく、議論の質を重要としている。市民に討論の場に出てきてもらう機会として今後も活動を継続していく。

市民参加とは素人参加ではない。市民を形成していくための対話の場を設計し、実践していくことが必要だ。技術が実験を繰り返して改良されていくのと同じように、コミュニケーションも実験を積み重ねていくべきである。


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