国際U濃縮センター構想を紹介 ロシア主導でIAEAの役割も強調

日本原子力産業協会は20日、シベリア東部のアンガルスク市に設立された「国際ウラン濃縮センター」(IUEC)のA.レベデフ会長(=写真)を招いて講演会を開催、核燃料の供給保証機構として機能することになる同センターの概要など、ロシアの濃縮産業の最新状況と展望について、かなり詳細な内容を紹介した。

ロシアの国営ウラン製品販売企業・TENEX社の副社長でもある同会長はまず、IUEC設立の経緯から説明。商業的な利益を追求しつつウラン濃縮役務のグローバルな安定供給に寄与するほか、核不拡散上好ましくない、いくつかの国の濃縮施設建設の動きを抑制するためにIUECが世界に貢献できるとの見解を示した。同会長の講演内容は以下の通りである。

原子力ルネッサンスの流れの中で、原子力開発利用を拡大する国や新たに導入を検討する国が増えつつあることから、濃縮ウランの安定供給は次第に世界的な課題となってきた。こうした背景から、IUEC構想は2006年に当時のプーチン大統領が提唱したイニシアチブに端を発し、08年にロシアの既存の濃縮施設をベースに創設されるに至った。原子力は地球温暖化対策に大きく貢献できる一方、秘密裏に核兵器に転用されるリスクも拡大する可能性がある。このため、つい先日、ロンドンのG20蔵相サミットでも英国のG.ブラウン首相は多国間燃料サイクル構想を支援するとの意向を表明。現在、同種の構想はIUECを含めて13あるが、IUECはすでに組織として出来上がるなど、最も先行している。

IUECの最大の使命は、現状の軽水炉燃料の全仕様に対応する濃縮度2〜4.95%の低濃縮ウラン(LEU)を保証された備蓄量として常時120トン保有し、IUECへの出資国以外でも、必要に応じIAEAを通じた商業ベースの供給要請に応じること。IAEAのM.エルバラダイ事務局長が提案したLEU供給原則としては、(1)IAEAの保障措置下にある国が対象(2)政治的基準ではなく、予め定められた基準により供給の可否を裁定(3)NPTに沿って原子力を利用している国が自国でリサイクルする権利については不問、などが挙がっている。

また、供給の最終的な可否はIAEA事務局長が判断する、供給価格はLEUのスポット市場価格に準じるもので、決してダンピング等により世界市場の独占化を図るものではない――など、IAEAとの取り決め内容は、すでに2月に合意済み。文書全体の大枠について3月のIAEA理事会に提出しており、6月の理事会で詳細を詰め、秋の総会で調印にこぎつける見通しだ。

LEUの実際の生産はロシアのアンガルスクにある濃縮工場と長期契約を結び、スペースを借り受けて実施。このため、国内に4つある濃縮工場のうち、同工場のみ、IAEAの保障措置を受けるカテゴリに入れた。運営方法は公開型の株式会社とし、現在、資本金である約100万米ドルのうち90%をロシア(TENEX社)、10%をカザフスタン(カザトムプロム社)が保有。さらにアルメニアとウクライナが加入手続き中で、両国も含めて後続の加盟国にはロシアが持っている株の中から当面10%ずつ分けていくことになっているが、全体の50%プラス1株は常にロシアが確保する方針だ。

出資国以外への供給の手順としては、まずロシア政府がIAEAを通じてLEUの供給要請を受け、IAEA事務局長決済で供給を決定。アンガルスク工場からのLEUだけで不十分な場合は、ロシア国内のほかの工場に濃縮役務を委託することもある。原則的に出資国を優先とし、余力があれば出資国以外からの要請にも応じるが、当然、NPT体制下の義務を果たすとともに、IAEAと協力体制を維持していることが条件だ。現時点で原子炉を持っていなくても今後の利用を希望していれば参加が可能で、国内に濃縮施設を持っていない国の方が優先順位は高い。LEUはIUECが製造し、原子炉での利用形態(粉状、ペレット状、燃料集合体状など)で輸出することになる。

IUECに出資するメリットとしては、エネルギー供給保障が強化され、自国で濃縮施設を建設する費用のない国でも市場価格でLEUを得られる点を挙げたい。IUEC理事会にも加わればLEUの製造・販売にも参加し、配当金を受け取ることも可能。すでに複数の国が関心を示しており、韓国、インド、スロバキア、ブルガリア、フィンランドとはすでに複数回、交渉している。日本からも濃縮工場の見学要請があった。

今後の予定としては、今年1年間にIAEAとの合意文書に正式調印するとともに、第一陣の供給契約も締結したい。輸送を担当する企業との契約も必要だ。中・長期的には、LEU燃料銀行の設立や投資計画の策定・実施を考えており、数年後に使用済み燃料の再処理を構想に含める可能性についても検討していく。


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