東洋町の事例を検証 東大で報告 処分地受入れ課題

社会技術研究会(代表世話人=堀井秀之・東京大学院工学系研究科教授)が5日、東京大学工学部で開いたワークショップ「放射性廃棄物処分の社会的側面に関する研究課題」(=写真)の中の、高知県東洋町に関する報告を紹介する。

「高知県東洋町における高レベル放射性廃棄物処分地決定に係る紛争の政治過程分析」小松崎俊作氏(東京大学院工学系研究科社会基盤学専攻)報告

高知県東洋町における高レベル放射性廃棄物(HLW)処分地決定に係る紛争では、議論が不可能となるほどの激しい対立が見られた。立地の進め方、制度そのもの、運用の仕方の何が問題だったのか。本研究では事例に基づいて、公募制度に基づくHLW処分地決定プロセスに存在する本質的な問題点「対立の要因」を探った。

応募取り下げに至るまでの支配的要因を検証すると、町外からの働きかけと町内反対派の動きが一致しての自主勉強会開催、反対請願署名、町長の応募書類の提出、一人の町議会議員の動きなどが抽出された。

また対立要因を洗い出し、因果関係を整理してみると問題点が挙がってくる。一例として、反対勉強会、講演・情報提供などを通じ、「廃棄物1本で原爆約30発分×4万本」などのレトリカルな主張や、「町を売るのでは」という反感を基にして危機感が浸透し、以降冷静な議論が不可能になるという問題が生じた。

こうした問題点を踏まえ、処分事業実施主体が行える方策をまず「公募制度の範囲に限定して」考え、解決策を仮想的に導入して関係者の心理・行動を変化させうるかを推測するシナリオ分析を行った。この結果、制度自体に起因する解決の困難な問題、つまり公募制度下では解決できない本質的な問題が見えてくる。

例えば反対派による勉強会や情報提供が行われる前に住民に根回しをしておくとする。すると安全性の問題や反対派の脅しなどには対応できるが、「金のために応募したのではないか」という批判に対しては町が自主的に交付金をもらうという構図は崩せず反論できない。もしもこれが国からの申し入れであれば、「国の指令で仕方なく受け入れた」という反論ができる。つまり公募制度自体に本質的な問題がつきまとうことがわかる。

これによって公募方式のみの制度から、公募と申し入れ併用方式への政策変更は妥当であることが示される。今後も他事例と比較したりインタビュー等を行ったりしながら、より詳細・多角的な把握をめざしていく。

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「高レベル放射性廃棄物処分場の立地確保に向けた社会受容プロセスモデル」和田隆太郎氏(東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻)報告

当研究では、2007年4月の高知県東洋町でのHLW処分場の立地検討の文献調査への応募に係る諸問題を例とし、社会受容プロセスモデルについて検討した。

第一の論点として、身近になく、巨大で高度な科学技術であるHLW処分は、周辺的ルート処理で意思決定されるのかということを分析する。自分のよく知っている内容について自らの意思で結論を出して態度を決める中心的ルート処理に対し、情報内容よりも「結局、信頼できる誰それが言うことだから大丈夫だろう」と情報の量および信頼性など周辺的な手がかりによって態度が決まるプロセスが周辺的ルート処理である。

東洋町ケースの時間的プロセスを調査すると、話題の表面化後にHLW処分時の安全性については十分議論された形跡がなく、短い期間で住民の態度が決まってしまったことがわかる。そして出直し選挙を分析すると、賛成でも反対でもない中間層のほとんどが反対している。このことから、HLW処分に関する知識の乏しい中間層は周辺的ルート処理によって応募反対の態度を決めたと言える。中間層への説明および彼らの行動が重要であることが明らかだ。

第二の論点として、一般市民が健全で合理的な意思決定を行うにはどうしたらよいのかを探る。住民が受けるべき情報としては、HLW処分の概念・枠組み・スケジュールや海外情報およびリスク情報などの基本的情報に加え、HLW処分時の安全性・経済性等の技術的な情報がある。

住民が態度を決定するのは話題が顕在化する前後にポイントがある。広域広報・オープンフォーラムは話題の顕在化前に実施し、中間層に基本的な情報を伝えておくことが必要だ。顕在化後には、十分な時間をかけて対話フォーラム、コンセンサス会議等の科学技術アセスメントで対話していく。進捗状況(タイミング)を考慮した説明により、中間層が全体的には周辺ルート処理でなく態度を決めることができる。

対話ツールによる直接的な対話はすでに行われているが、議論の場を設けても賛成派と反対派しか来場しない。しかし実際の直接投票で結果を決めるのは中間層である。原子力に興味のない中間層の関心をひくテーマを抽出・選定し、基本的な情報を伝えていくことが課題である。

一方で技術本質による円卓的な対話では、学会連携によりHLW処分時の安全性・経済性について他分野専門家に説明していくことが有効だ。そして中心的ルート処理で自らの意思を決定した他分野専門家が、周りの非専門家層の住民へ自分の意見とともに伝えていく。これによって技術的には周辺的ルート処理で判断せざるを得ない他の層の態度決定を助長することができる。


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