【Fresh Power Persons − 座談会編 −】 「低炭素革命」リーダー国の条件 「日米主導構造」の検証と原子力


「低炭素社会・アジア版」研究に着手

司会 では、藤野さんは国立環境研究所(国環研)でどのような研究に携わっているのか。また、GM社まで倒産した100年に一度という世界同時経済不況の最中、5月には丸1か月間、海外出張で英国、タイ、中国を回った目的は。

藤野 海外出張で“高炭素”な生活をしてきた(笑)。私は国環研で「日本の低炭素社会シナリオ」が描けるかの研究プロジェクトに携わり、日本でもCO排出量を2050年までに1990年比で70%削減できるポテンシャルがあることを確認するとともに、どういう政策を打てばそれが実現できるかといった分析をこの3月まで5年間かけて行った。その後、現在は「アジアの低炭素社会シナリオ」が描けるかどうかの研究に着手している。

日本は周知のように世界に占めるCO排出量はわずか4%だから、極端に言えば日本がゼロになっても、残り96%をどうするかだ。それだけに、経済成長著しいアジア地域が今後、高炭素経済に向かうのか、低炭素経済に向かうのかが、特に温暖化対策やエネルギー問題で地球の行く末を決めてしまうカギを握っている。しかも今まさにそのターニングポイントのぎりぎりのところを迎えており、アジア諸国はこれからどんどんインフラを整備・拡充していくので、そのインフラをいかに低炭素構造にできるかが重要だ。

例えば、バンコクでも知事がC40(世界の主要40都市の首長会合)に参加したあと、「温暖化対策、やるぞ!」と先頭に立って12年までの行動計画も策定したが、実際はまだ道路依存のロサンゼルス型インフラが大きく残っていて、車が渋滞で全く動かないことによる機会費用の損失、CO排出増大が深刻だ。そういうインフラはいち早く転換する必要がある。例えば、オリンピックのときに北京は変わり、今では地下鉄が10本ぐらい開通して道路の渋滞を緩和した。今後さらに地下鉄を増やす計画を立てている。そういう低炭素インフラにいかに転換していけるかのシナリオを一緒に描くことで、資金面の協力も含めながら、当事国自身がそういう方向に移行したほうが得だということを実感できるような、研究成果を示せないかチャレンジし始めたところだ。

司会 それには、アジア地域の研究機関や研究者との連携が大事ではないか。

藤野 その通りだ。われわれと似たような研究機関は、あるようでないような状態だし、日本国内でもそれぞれが意外と独立した動きをしていているのでもう少し結集する必要がある。小宮山さんが取り組んだ米国の低炭素社会シナリオのようなものをアジアでもつくれないか。また、米国の政策で一番興味深いのは先ほどの包括法案あるいは50年の長期ロードマップを描く構想があるとの指摘があったが、それを米国が本格的にやり始めると、世界各国ともやらなければならなくなるかもしれない。

日本では、われわれも長期ロードマップの研究はしたが、政策としてはまだ十分に揉まれていない。今回も、温室効果ガス排出量の中期目標で20年までの政策は考えたが、その際、国づくりというところまでは正直言って踏み込めなかった。国づくりの観点から、まず産業の国際競争力を高め、日本がどうやって生き残っていくかを考えながら、どういう政策を打ち出していくかを早く固めることが肝心だ。私は、そこがコペンハーゲンで開催されるCOP15に臨む一番のポイントだと思うが、まだそこの議論が圧倒的に欠けているような気がして非常に不安だ。削減目標の数字がすべてではないことを銘記してほしい。

司会 英国訪問は、低炭素社会・アジア版シナリオ策定とどう関係するのか。

藤野 英国にはシンポジウムの講演を依頼されたのと合わせて、低炭素化への取組み・研究を勉強しに行った。例えば、経済分野ではテリー・バーカーという研究者がいて、彼は温暖化対策なり環境政策を厳しくすればするほど技術発展効果を考慮すると経済に有益だという結果を経済モデルで示している。日本でもマスキー法が議論となった際、自動車産業は全部つぶれてしまうと言われたが、実際はどうなったかというと、そこで本当に死ぬ思いをしながら、地力をつけて、イノベーションで新しい技術を生み出したおかげで、今につながっている。逆に、そこで頑張らなかったGMが今回のような結果に至ったのではないか。

しかし、大事なことは今ここで休んでいる場合ではなくて、さらに低炭素にふさわしい産業を創り出していけるかだ。今、そこを描けている経済モデルがあまり見当たらないので、国環研のAIM(アジア太平洋統合評価モデル)の要素に何とか組み入れられないか、研究のタネを探索するのが英国訪問の目的の1つだった。


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