【Fresh Power Persons − 座談会編 −】 「低炭素革命」リーダー国の条件 「日米主導構造」の検証と原子力


「環境の世紀に役立つ」メッセージ必要

藤野 今回の中期目標の計算では、そういった投資効果、特に将来へ投資することによって技術開発が誘発されるか否かについて、モデルとしてきちんと組み込めているかどうかは、まだ検討途上だったと思う。

また、「政府は賢くない」というのは私も同感だが、今回、AIMも含めて中期目標検討委員会で取り組んだ経済モデルの計算では、賢い政府を想定していた。つまり、1990年比の排出量がプラス4%になるケースを成り行きケースと想定し、その時点で最適な資源配分を行うことで所与とされた年率1.3%のGDP成長が達成できるように、モデルのパラメーターを調整したので、それよりも厳しい環境制約を課すと資源配分が歪み、必ず経済ロスが出る構造になっていた。しかし、実際には環境制約を課すことで、モデルの想定を上回る効率の向上や価格の低下、新たな産業の創出が起こりうる。そういった未知の部分は、モデル開発者にはよくわからないし、無理に想定すると批判されるので、計算する際には十分に考慮されない。

実際は、政府はそれほど賢くなくて、成り行きケースだとそれほどの経済成長が達成できないのではないか。むしろ、環境制約を厳しくすることで経済の建て直しや雇用創出を狙っているのが、オバマ大統領の「グリーン・ニューディール」や韓国の「グリーン・グロース」だと思う。つまり、経済モデルでできることとできないことがあり、それらをよく理解しながら将来を見通したより効果の高い政策を立案するのが政治のリーダーシップといえよう。

今回、年末のCOP15までにどうしても必要なことは、そうした産業論や日本の経済、国際経済を語れるような人に、「日本をどうするのか」をよくよく議論してもらわなければならない。加えて、ビジネス界にも参加してもらい、どこが日本のチャンスなのか、どうすればチャンスを生かせるのか、生身の話し合いが絶対に必要だと思っている。

私は、多分、日本は世界から尊敬されないと生き残れないと思う。これだけいろいろなものを輸入に頼っている。エネルギーでは原子力を除いたら90%以上輸入に依存している国が、今はGDP世界ナンバー2だから何とかそれなりに見てくれているが、それでも、G20に置かれている世界時計では、すでに東京から北京に移ってしまった。その中で、もちろん国益は大事だが、日本の役割として、世界へどういうサービスを提供できるか、それがきちんと「低炭素革命」というか「環境の世紀」に役に立つことを示してあげないと、せっかくいい技術、製品を持っていてもメッセージがはっきりしなければ、日本のポジションはますます影が薄くなろう。これが国際交渉の中では大変重要になると思う。

司会 特に日本では、国策等の場でビジネスライクな議論するのは後ろめたい≠フでは。

藤野 もったいないですね。政府だけでは実ビジネスに根付いたアイデアが乏しいので、なかなかわくわくする<vランはつくれないんですよ。

小宮山 私も藤野さんと同じ意見で、産業界の人たちにもっと国際交渉や国内議論の場に積極的に参加してもらうことがベストではないか。彼らは省エネの知識が豊富だし、実際の技術や投資判断についても卓越した知識を備えているので、積極的に議論に加わってもらうことで日本の経済成長と地球温暖化対策の徹底を両立させるためにはどうすべきか、もう少し具体的な観点で政策を立案する枠組みを構築できるのではないか。

秋元 私も、その点に関しては同意見だが、今回の中期目標検討委員会では実にいろいろな人が参画して激しい議論を展開した。ただ、これをもっと長期ビジョンを検討する場に導入する機会を増やしてほしい。これまでのような、始めからお決まりの形式的審議会方式では発展は望めない。既成路線で議論するのではなく、もう少し自由な発想でいろいろな人がどんどん発言できれば、より斬新なアイデアも生まれるし、活力に満ち、魅力ある日本の国家戦略策定にも寄与するだろう。

司会 本日は、アカデミックで本質をつく議論をありがとうございました。(当日の座談会では中期目標での「真水論」、排出量取引についても議論いただいたが、紙面の制約で割愛せざるを得なかった)。


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