「原子力発電の将来」 米MITが改訂版 開発導入の遅れに警鐘

米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授陣による研究グループは、「原子力発電の将来―MITの学際研究」の改訂版を発表した。前回の2003年版では、地球温暖化への危惧とCOおよび他の温室効果ガスを発生しない発電技術の必要性を説き、2050年までに全世界の原子力発電設備容量を10億kWまで増大させるべきと提言。今回発表された2009年版では、03年以降の開発動向を振り返り、経済的な要素を含めて原子力が直面する課題を次のように再考している。

03年以来、ガソリンに代わりハイブリッド車や電気自動車が普及の兆しを見せるなど、電気利用への関心が増し、それに伴って無炭素発電である原子力の重要性も高まっている。しかし03年に示したシナリオに比べ、米国でも世界レベルでも原子力発電は拡大の進展が非常に遅れている。新たな原子炉建設計画が数か国で公表されたが、実際に建設計画が具体化しているのは中国、インド、韓国など一部のアジア地域を除けばわずかである。この建設スピードでは、2050年までに世界全体で10億kWという発電目標の達成の可能性は、03年時点よりもさらに低くなり、原子力が地球温暖化の切り札としての役割を果たせる時機を逸することになる。

表で見るとおり、コスト面では近年の景気失速の影響を受け、03年での見積り当時に比べ、原子炉建設費は年率15%上昇。この数字は日本と韓国の建設実績および米国内原子炉建設計画コストから算出した。石炭と天然ガスによる発電所建設コストも上昇しているが勢いのピークは過ぎており、原子力ほどの急激な上昇ではない。さらに想定課金等の設定に見直しを加えた結果、03年版で2000ドル/kW(02年時のドル換算)だった原子炉建設費は、4000ドル/kW(07年時のドル換算)となる。炭素税を25ドル/トンと仮定すると、発電コストは原子力が6.6セント/kWh、石炭火力が8.3セント/kWh、ガス火力が7.4セント/kWhとなる。

03年版では建設リスク面から原子炉建設に金利を加重し、原子力のコストが一番高いと結論づけていたが、今回は全ての金利を同じレベルで計算した結果、原子力発電のコスト競争力が上がる結果となった。ただし、原子炉を建設する際の大幅なコスト超過や工期の延長といったリスクによる資金調達コストの増加不安を払拭するには、実際の新規建設によって実証するしかない。


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