米MITとハーバード専門家討論 使用済み燃料=「廃棄物か資源か」 高レベル廃棄物処分計画中止で 米国バックエンド政策を根本的に議論

米国のB.オバマ大統領がネバダ州ユッカマウンテンの高レベル廃棄物処分場計画中止の決定を下したことを受けて、マサチューセッツ工科大(MIT)とハーバード大の専門家達が5月にMITで少数会合(=写真)を開き、米国における使用済み燃料の処分方法について意見を交換した。会合名は「放射性廃棄物のリサイクル・21世紀における廃棄物への取り組み」で、座長を務めた上院・大気浄化・原子力安全保障小委員会委員長のT.カーパー議員(民主党・デラウェア州選出=写真の右端)によると、専門家による現在進行中の議論や最新情報を議会に持ち帰る目的があったとしている。

米国では「放射性廃棄物をリサイクルするか、あるいは直接処分するか」の問題が新規の原子力発電所建設計画を進めるに当たって最大の障害になっていると多くの分析家達が指摘。ユッカマウンテンの地元・ネバダ州からは当然、立地計画に激しい反対意見がある一方、今回の会合では、何人かは同計画の打ち切り決定に疑問を投げかけており、「少なくともユッカマウンテンを利用可能なオプションとして残すべきではないか」との示唆があった。

まず座長のカーパー議員は、化石燃料への依存軽減や雇用創出、気候変動問題への取り組みという点から「安全な原子力の利用」を支持。同議員によると、過去30年間で原子力に対する米国民の意識は劇的に変化し、いまや原子力をオプションの1つとして積極的に受け入れるまでになったが、それでも廃棄物の問題は原子力を巡る議論の中では「誰もが認識しているにもかかわらず、口に出したくない話題」だという。国内で稼働する104基の原子炉は、炉寿命を迎えるまでに10万5000メトリックトンの高レベル放射性廃棄物(HLW)を排出すると予想され、現在計画されている処分方法ではニューヨークにあるセントラル・パークの2倍もの広さの浅地層貯蔵施設が必要だ。

パネリストとして同会合に参加した4名の専門家達――MITからC.フォルスバーグ、E.モニッツ、A.カダック、およびハーバード大のM.バン――の各氏は全員、「一般市民の受け止め方とは裏腹に、廃棄物の処分問題は緊急の課題ではない」という点で意見が一致。発電所サイト内の乾式キャスクで貯蔵する現在のシステムなら数十年間、あるいは100年間でも安全に留め置くことができるとしている。モニッツ氏は特に、永久処分を今実施することに技術的な意義はまったくないと発言し、「まだ我々には時間がある」と主張した。

フォルスバーグ氏は「最良の貯蔵政策を決定するまでには、国として廃棄物を最終的にどうしたいのか明確に決められるか否かにかかっている」と強調。現在までのところ、我々は使用済み燃料が廃棄物なのか、あるいは国家の最も重要なエネルギー源なのかさえ分かっていないと指摘した。また、現在の原子炉での「ワンス・スルー」サイクルでは燃料から1%のエネルギーしか抽出しておらず、燃料の潜在的な価値をさらに活用するため再処理することも可能だと指摘。処分場の立地と操業は、技術的なチャレンジであるのと同様に、政治的なチャレンジであるとの見方を示した。

カダック氏は、例えオバマ大統領がユッカマウンテン計画の取り消しを決めたとしても、「それでもやはりユッカマウンテンは利用可能だし、我々は本当に最初からまた始めたいのか?」との疑問を投げかけた。サイトの調査と選定には「1世代分」の時間がかかり、やり直しをすればその分さらに、遅れることになると訴えた。

モニッツ氏は、「現時点でいかに再処理を推進しようとしても、事態を混乱させ、新たな世代の原子炉建設のための努力を著しく妨害することになるだけだ」と警告。最優先の課題は新規建設の第一陣によって、新規発注がなかった25年以上の空白を破ることだと指摘した。

再処理については、バン氏も「現在の再処理技術は無駄が多く、やらないよりもかえって高くつく」と補足。核拡散やテロに使われるリスクも増大し、事実上、国家のエネルギー供給保証が損なわれることになると主張した。その意味で同氏は、原子力の明るい未来を欲する者ならば、最良の燃料サイクル方法が分からない現時点では、再処理に反対すべきだと断言。今後新たな再処理方法が開発されれば状況もまた変わっていくとの見解を示した。

モニッツ氏によると、MITは将来の原子力開発に関する精密な調査を2003年に初めて発表。その中で、「世界的な気候変動緩和に実質的に貢献するには、世界は少なくとも10億kWの新たな原子力発電設備を必要としているが、現在の政策はその方向に向かっていない」と警告していた。モニッツ氏はこの5月、MITが同調査の改訂版を公表したことに触れ、MITが「今、最も必要なのは、先進的な燃料サイクルのための確固たる研究プログラムであり、年間5億ドルの予算」と訴えている点を強調した。


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