【インタビュー】大手メーカー3社編 「低炭素革命」─行動へ 「原子力ビジネス」と向き合う(1) 日立製作所 執行役常務・電力グループ原子力担当CEO 丸 彰氏に聞く BWRに特化、GEと世界戦略展開 現地パートナーとの連携がカギ

―日立製作所は来年で創立100周年。4月の社長交代で「先祖返り」というか、重電・社会インフラ事業シフトが鮮明になった。原子力ビジネスの位置づけは。

 日本の原子力開発半世紀の歴史のスタート時点から日立製作所にとり原子力発電は「コア・ビジネス」という捉え方をしてきた。その姿勢・位置づけは今もまったく変わっていないし、これからも変わらない。

ただ、ビジネスのあり方は重電事業全体に共通することだが、90年代に国内需要が低迷する中、日立では05年から世界市場に目を向けグローバル化が不可欠との認識が一気に高まり、米、欧に電力事業の拠点会社を相次いで設立した。

それ以前は、日本からの輸出型。こちらから出かけて行って海外で仕事をすることが多かったが、各国・地域により事業形態は非常に異なり、日本のセンスでは限界がある。そこで、各地域で最適な形で事業拠点をつくるという考え方に切りかえ、われわれのグローバル化と同時に、それぞれの地点で最適な事業を行うローカル化に取り組んだ。

この方式を導入して電力事業は急伸し、06年度の売上高5700億円・営業赤字が、08年度には8500億円・営業黒字に跳ね上がり、原子力の比率は23%。今後、11年度には総売上高1兆円・営業利益5%のうち原子力は売上高2000億円の見込み。

さらに、原子力は15年度には3000億円、これに海外拠点分を含め5000億円になると予測している。

―大手メーカーは「三社三様」ながら、日立は米国のゼネラル・エレクトリック(GE)と原子力事業を統合する形で世界戦略の覇を競っているが、狙いと手応えは。

 これは、先のグローバル化・ローカライズ化の発想に立つもので、お互い得意な分野を生かして、世界各国・地域で密接に連携していく「決定版」が、GEと日立の提携として結実した。

07年に両社の原子力事業を統合し、米国にGE日立ニュークリア・エナジー(GEH)、日本に日立GEニュークリア・エナジー(HGNE)を設立した。GEの一番の強みは、電力関係で非常にグローバルなネットワークを持っていることで、世界のガスタービンのナンバーワン・サプライヤーだし、原子力事業も世界各地に実績があるので、地元の事情やユーザーの知識が豊富。特に、マーケットに対する彼らの能力は卓越している。

例えば、ネットワークの広さを実証する一例を挙げれば、今年3月にインド原子力発電公社およびバラート重電公社と提携、同国におけるABWR建設協力に関する覚書に調印した。日本はまだインドと原子力協力協定を締結していないので、できないことがGEHにはでき、将来の突破口が開けた。

さらにGEは欧州市場にも強く、4月にはスペインの大型機器製造業者と新型原子炉の圧力容器製造能力を拡大する戦略的合意に達した。こうした世界的ネットワークは、われわれにない能力なので非常に有効だ。

一方、原子力設備・機器の許認可は国によってかなり違い、米国は米国の特質、基準がある。GEは当然ながらその基本的なライセンスのみならず背景にある情報まですべて持っているので、われわれはGEH経由で利用できるだけに、日立、GE両社の補完関係は非常にうまく成り立っている。

さらに最近、焦点となっている燃料関係でも密接に連携している。まず燃料加工については、炉心燃料の供給、開発を行う合弁会社グローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)があり、問題はない。

また、ウラン濃縮は非常に技術が高度で、サプライヤーの核になり得ると思うので、GEHで濃縮技術の開発に着手した。この開発にはウラン供給大手のカメコ社も参画し、サプライチェーンを整備する意味がある。濃縮事業は誰にでもできるものではないだけに、そこにわれわれが技術的アドバンテージを持って参入できれば非常に価値がある。また、ウラン鉱山開発は、これからさらに世界規模で開発が進むだろうが、プレーヤーの数も多彩かつ多く、当面、ビジネス上の支障にはならないと考えている。

「モジュール工法」で差別化

―では、日立の強みは。

 まず、日立の原子力の状況を言うと、国内で中国電力・島根3号機、世界初のフルMOX炉である電源開発・大間原子力発電所の2基を現在実際に建設中で、これは、世界でもフランス、中国を除くとほとんど例がなく、われわれの一番の強みの1つだと思う。また、15年以降に運開するプラント建設受注への期待も含め、まず、国内にがっちりした基盤がある。

さらに、これから日本メーカーが原子力プラントを海外で一括受注・建設するには、単に工場の生産能力だけではなく、むしろ現地で建設に携わる技能者の確保が重要となる。しかも、土木工事だけではないので、かなり技術力を持つ、その国・地域で最適な人を数千人規模で確保しなければならない。中東のように国内に労働力がない場合は外から集めるような対応を含め、土建やエンジニアリングの有力なパートナーを案件ごとに確保できるか否かがプロジェクトの成否のカギを握る。 さらに、信頼し合えるエンジニアリング、土木建築会社とパートナーを組むことになれば、お互いよく勉強する必要があり、相手側には、われわれがどういう能力を持っているかをしっかり教えなければならない。

そこで日立の今一番の強みとなるのが、原子力発電所建設における最新の「モジュール工法」だ。これは、できるだけ現地作業を工場にシフトし、工場でアセンブルしたユニットを、現場にすっと持って行って据え付ける。

これには、非常に多くの経験を積んできており、どこにもない技術だと自負している。現在建設中の島根3号機でも採用、海外から08年度以降約100人が視察に訪れたが、「これなら(自国でも)工期通り建設できるだろう」と自信を持ち、「ぜひ、日立にやってもらえないか」と期待の声が大きい。

こうしたモジュール工法は決して日立だけでできるわけではなく、島根の場合、鹿島建設が土建を担当しているが、ある種の、ものすごくインターフェースな技術・ノウハウ・経験を必要とする。つまり、建物を建てつつモジュールを据え付け、それで天井を張って、またモジュールを据え付けるというような工事になる。われわれの担当する機械・電気製品を略して「機電」の仕事と称しているが、それと土木建築の仕事は、こういう形で連携していくのでパートナーが非常に大事だ。

従って、そこの部分で、われわれがどんなものを提供でき、現地の土木建築のパートナーに彼らの工事とどうマッチさせられるかが非常に重要になる。まずパートナーを選んだら、その点を徹底的に議論し、こちらの経験を十二分に伝授し習熟させないと、一つ間違うと大変な事態を招きかねない。そういう点に配慮しながら、パートナーとの間の緊密な関係を築かないとプラント建設はできないところが一番の要点だ。

―ところで日立・GEグループは、加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)のうちBWRに特化しているが、PWRや両タイプを手掛けるグループに比べ優劣はどうか

 現在の世界シェアから見るとPWRが多いが、これはPWRが原子力潜水艦のような軍事用に不可欠な技術であることと関連しており、商用炉としての経済性や技術的優劣が理由ではない。もともとBWRは、商用発電のためにGEが当時新しく開発した炉で、非常にシンプルかつ本当の燃料サイクル、つまりウランの有効な使い方には最適な炉だと思っているので、数でPWRに負けているとか、勝っているとかという意識は全然ない。

米国では全体の3分の1はBWRで、その長所をよく知っており、両炉型を比較して技術論で優劣を言うユーザーはなく、どちらかといえばサプライヤーの信頼性を重視している。したがって、日立、GEともにBWRに絶対の自信と誇りを持ち特化しており、われわれの思いは、きちんとしたBWRをその土地できちんと動かすことに最大の眼目がある。PWRに手を出すつもりはない。

―世界優位にある日本のプラントメーカーとして今、どのような思いか。

 日本の原子力優位は、長年にわたり電力、ゼネコン、メーカー、サプライヤーおよび政策との緊密な相互連携のもとに極めてクローズドな特殊な国内市場で培われてきた。そうした技術、経験、ノウハウを、いかに国際市場に普遍化していくかが、世界の「低炭素社会」実現への日本の役割だと思うが、現実には受け入れ側の制度、インフラ整備、資金、サプライチェーン、教育などすべての問題を解決できないと進まない。

日本メーカーはこうした課題に十分対応し、国際貢献できると思うので、国として規制、安全確保、人材教育などの面で一層の支援を期待したい。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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